Another Episode 『ノンストップ・シグナル』

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街が夜の色に染まろうとしていた頃、デカベース内にけたたましく警報が鳴り響いた。
ほぼ同時に、各自のSPライセンスに、ボスからの緊急通信が入電される。
『ポイント416の雑居ビルで、若い女性がアリエナイザーに襲われているとの情報が入った。急行してくれ!』
「…ロジャー!」
自室で一人、ビデオ鑑賞に耽っていたジャスミンは、短く返答し、部屋から飛び出した。

現在、バンとウメコは別のポイントをパトロール中であり、センちゃんは休暇を取り、隣県に住む妹の家に滞在中のはずだ。
ベース内に待機していたホージーとテツ、そしてジャスミンの3人は、マシンハスキーとマシンボクサーで現場に急行した。
本来、ジャスミンは捜査用車輌としてマシンドーベルマンに乗るべきであるが、今回は
・バンとウメコがドーベルマンを使用している事
・路地が多く、歩行者の多い繁華街であるポイント416には単車が適している事
といった理由から、ジャスミンはホージーの後ろ、ハスキーのシートに同乗した。
「いっちょ、行っとく?」
「オーケイ、飛ばすからしっかり捕まっていろよ」
メットの向こうから、かすかにホージーの声が聞こえた。
返事は返したが、急発進したエンジン音にかき消された。
(ホント、凄いスピードだこと…)
ハスキーの最高速度は時速300kmに達する。
さすがにその最高速を出してはいないだろうが、バイクに乗り慣れないジャスミンにとっては、軽い畏怖すら覚えるスピードである。
(だけど…)
彼女は決して運転者の青い制服に寄りかかろうとはしなかった。
彼女の両手はグローブによって素肌は隠されているが、しがみつく事により必然的に彼に触れてしまうであろう顔や脚は、当然むき出しである。

────ジャスミンは、エスパーである。 彼女は、触れたものの残留思念を読みとる事ができるのだ。

その能力がいつ、なぜ備わったのか。
ジャスミン本人にもそれは分からない。
だが、彼女にただ一つ分かるのは、不用意に他人の心を読む事が、読む側にも読まれる側にも決して良い結果をもたらさないという事だ。
仕事仲間を信用していない…という意味ではない。
誰にでも知られたくないプライベートな部分を持っているし、多かれ少なかれ悩みだって抱えている。
特に目の前にいるホージーは…つい数週間前に、辛い失恋を経験しているのだ。
思念とともに、心が抱えるマイナス要素も確実に伝播してくる。
その悩みを同じように共有したところで、ジャスミンにはどうしてやる事もできないし、彼もそれを望んではいないだろう。
その証拠にホージーは、不自然な座り方をする彼女に気付いても、もう「捕まれ」とは言わなかった。

現場である雑居ビルの周りには、野次馬が大勢押しかけていた。
ビルのあちこちに、明らかにアリエナイザーの仕業と思われる損傷が見受けられる。
「先輩! 現場は、3階の居酒屋だそうです!」
ひと足先に到着していたらしいテツが、二人に状況を説明する。
「よし、行くぞ!」
「ロジャー!」
3階…階段の踊り場で、一人の若い女性が二人の異形の者に取り囲まれていた。
二人とも出身の星は同じのようだ。
女性は、裸に近い格好にされ、今まさに陵辱されんとしていた。
「ナンセンス!」
彼女に覆いかぶさっているアリエナイザーの股間に、大きく隆起したモノが見え隠れしている。
「えんがちょ…」
思わずジャスミンは呟いたが、敬遠しているわけにもいかない。
素早くSPライセンスのセレクトスイッチを切り替え、両腕を交差させながら突き出した。

「エマージェンシー!!」
発せられたコールサインに呼応し、瞬時に空気中のデカメタルが黄金色に輝きながら彼女の身体を包み込む。
ジャスミンは、特捜戦士デカイエローへと変貌を遂げた。
「ちょっとタンマよ!」
彼女の呼びかけにより、ようやくアリエナイザーどもが刑事達に気付いた。
彼らが臨戦態勢に入る前に、青と白の戦士は怪人の間に割って入った。
何よりもまず、被害者の救済が先決である。
虚をつく事に成功したホージーとテツは、無事に彼女を階段の下へと保護したようだ。
「テツ、彼女をメディカルセンターへ! こいつらは、俺とジャスミンで何とかする!」
「ロジャー!」
彼らによる救出劇が一段落した頃、ジャスミンのライセンスが陰茎露出アリエナイザーの情報解析を出力した。
「ホージー、その男はフリス星人ダーワ。55もの星で370人の若い女性を集団で強姦し、
子を寄生させて死に至らせてきた凶悪レイプ魔グループのリーダーみたい。
隣の男はおそらくバッシャコよ。二人とも、既にデリート許可の判決が出されているわ。」
「アンビリーバボー…。許す訳にはいかないな。」
クールな口調とは裏腹に、ディースナイパーを握る指先に一層の力が加わるのが見てとれる。
「黙って聞いてりゃ、偉そうな事を抜かしやがって! せっかく名器が多いっていう地球の女が食えると思ったのによお! 兄貴、この星のデカですぜ。」
「しょうがないなあ…ねえ、そこの黄色いオネーチャン、代わりに僕の子種を受け取ってよ…」
フリス星人達は、やっと戦闘態勢を整えたようだ。
ダーワが、膨張したままのモノを自らの手でさすりながら、ゆっくりとジャスミンへと近づく。
一方のバッシャコも、階下のホージーと対峙している。
(どうやら、一人で片づけなきゃならないようね…)
胸の中で軽くため息をついたが、先程のデータを見る限りでは全く負ける気はしなかった。

「ゼニボム!」
威嚇代わりに小銭型の爆弾を投げつける。
ダーワは一瞬怯むが、すぐにいやらしく口元に笑みを浮かべた。
「いいねえ、そうやって抵抗する女を犯すのが、一番コーフンするんだよ…」
見ると、完全に勃起したと思っていたモノが、さらに堅く大きくなっていく。
「そのスーツのせいで顔がわかんないのは残念だけど、それを脱がす楽しみもあるし…それに、スタイルもそそるねえ…」
ダーワの右手の動きも段々と速く、リズミカルになっていく。
隆起の先端からは、おぞましい色をした体液がにじみ出て、異臭を放っていた。
「ディーショッ……え……?」
なおも向かってくるダーワに銃撃を与えようとしたが、急に身体の力が抜けていった。
だらしなく崩れ落ちるジャスミンを見下ろし、ダーワは興奮を抑えられぬ声を発していた。
「ハァハァ…フフフ、油断しちゃったね…?僕たちの先走り汁の匂いはね、あらゆる生物の『メス』を脱力させられるんだよ…」
(そんなこと…データベースに載ってなかった…)
「ほんと、イイカラダしてるよねえ…ハァハァ…」
遂にジャスミンに達したダーワが、彼女の柔らかな肉体を弄び始めた。
乳房をゆっくりと揉みしだき、腰の辺りにモノを押しつける。
「フゥ…思った通りのカラダだ…きっと、キミの中も柔らかくてキモチいいんだろうね…でも、ゆっくり楽しもうね…」
(最っっ低…)
デカスーツに身を包んだ今のジャスミンには、エスパー能力は使えない。
しかし、ダーワの全身から発する劣情は、女の本能で理解できた。
(こんな男に、何百人もの女の子が汚されて、死んで行ったの…?)
「ホージー、助けて…」
刑事としての怒りや誇りよりも、今は女としての悲しみが勝っていた。
彼女は、力を振り絞り、仲間を頼った。
2階でバッシャコと格闘中のホージーが、その声でようやく彼女の危機に気付いた。
「ジャスミン!!」
「おおっと、お前の相手は俺だぜ?兄貴の後で、彼女を頂くんだから、邪魔するんじゃねえよ!」
しかし、バッシャコも容易に救援に向かわせはしなかった。
「何故だ?フリス星人は、格闘能力なんてないはず…」
「甘いな!コウモリみたいなエージェントから非合法強精剤を高値で買い占めてやったら、このシャツをサービスしてくれたのさ」

────それは、ホージー達ですら存在を知らなかったエージェント・アブレラの新商品、『ニューマッスルギア』だった。
ニューマッスルギアは、従来の製品に比べて薄く軽量にできており、通常の衣服との見分け方が困難になっているのだ。

「くそっ!待ってろジャスミン、コイツをやっつけて、すぐに助けてやるからな!SWATモード、オン!!」
「早く…お願い…」
当のジャスミンは、遂に声をあげる事すら困難になっていた。
ようやく絞り出したその声は、もはや呻きでしかない。
そして、彼女をまさぐり続けるダーワは、彼女の持つSPライセンスを手にしていた。
「フフフ、これでその邪魔なスーツを脱がせられるんだね…」
電子音とともに、彼女の最後の砦であるデカスーツは、再び空気中へと散開していった。「ああ…思ってた通りだよ、可愛い顔してるねえ…もっと、怯えた顔にしてあげるからね…」
露わになった制服を舐め回すように眺めながら、ダーワは手淫の速度を速め、彼女の顔の目の前に持ってくる。
「まずは、その可愛い顔にタップリとかけてあげるよ…。ああ、目を背けちゃダメ、ちゃんと見て…」
異星人のものとはいえ、ジャスミンにとってここまで間近に男性器を見るのは初めてだった。
中学に入る頃から、男の同級生たちに触れる度、彼女は自分に向けられる強い性欲のビジョンを否応なく見せられて成長してきたのだ。
ボスと出会い、彼の心に触れるまで、彼女にとって男性は単なる欲望の塊としか写っていなかったのは当然であろう。
今では、その年齢の少年達がその心を持つ事は健全であると理解はできる。
しかし、やはり自ら性の世界に足を踏み入れる事はどうしてもできなかった。
なのに今、彼女の貞操は暴力という最も憎むべき手段で奪われようとしている。
「ハァハァ…そうだよ、もっと軽蔑の目で僕を睨んで…ああ、ダメだ、そろそろ出ちゃう…ねえ、出るところ、ちゃんと見ててね…ピュッピュッって、おちんちんから出るからね…」
恐怖と絶望が支配する中、彼女はいつ射精してもおかしくないモノから目を離す事さえできなくなっていた。
そして…
「…アァ…」
恍惚の声とともに、ダーワは勢いよく汚辱の液を吐き出した。
汚れを知らぬジャスミンの口元に向かって飛ぶその液体が、彼女の目にはスローモーションで映る…
(…いやぁ…)

が、その刹那。
彼女の眼前を別の白い物体が遮った。
「…オゥ、シット!」
「ホー…ジー…」
ダーワが放った性の凶弾は、青き戦士の左手で全て受け止められていた。
「ジャスミン、大丈夫か?待たせてすまない」
バッシャコは、既に階下で息絶えている。
ジャスミンは、すんでのところで汚されずにすんだのである。
汚れが染み込んでいく左手に顔をしかめている様子が、スーツの上からでも容易に想像できる。
「あああ!僕、男なんかにぶっかけちゃったの?なんで邪魔するんだよぅ!」
ダーワがだらしなく男根を露出させたまま、地団駄を踏んだ。
ホージーが、改めて彼を見据える。
「…フリス星人ダーワ!55の星における370の強姦、及び寄生殺人の罪でデリート許可は出ている!観念しろ!」
そこからのホージーは、鬼のような強さだった。
彼が普段以上の怒りを以てダーワを打ち据える本来の意味を、この時のジャスミンはまだ気付いてはいなかった。
ようやく彼女の運動伝達神経がわずかながら覚醒した頃、ダーワは断末魔の雄叫びをあげて銃弾に倒れた。
「これにて一件コンプリート!…ジャスミン、もう動けるか?」
熱く闘った直後でも、クールにジャスミンをいたわるホージーは、もういつもと変わらなかった。
…少なくとも、ジャスミンはこの時そう感じていた。
「バン、ウメコ。こっちは片づいた。もう応援は必要ないぞ」
『なんだよ相棒、二人でやっつけちゃったのか?』
『急いで損しちゃったぁ…』
ホージーが援護に向かっていたバン達に、事件のコンプリートを知らせる。
「ホージーがあんなに強かったなんて、リバーシア星人もビックリね」
心身ともに呪縛から解き放たれつつあるジャスミンも、徐々に平常心を取り戻す。
「フッ…大丈夫そうだな」
既に変身を解除したホージーが、優しい目で彼女を見下ろす。

…と、彼の眼差しが一点で止まった。
スカートから覗く眩しいほど白いジャスミンの腿を、彼は凝視している。
「もう、どこ見てるのよホージー…えっち・すけっち・わんたっち!」
「ああ、すまない…」
だが、言葉とは裏腹に視線は変わらない。
「もしかして、パン・ツー・丸見え?」
軽く茶化しながら、起こして欲しくて手を差し出したが、彼は動かなかった。
ただ、眼差しが優しさではないものに変わりつつある。
どこかで見た事のある目だ…。
「ねえ、ホントにどうしたの、ホージー…」
どうにか上体を起こし、スカートの中を見られない体勢にする。
どう考えても、ホージーの状態がおかしい。
とその時、二人のライセンスにコールサインが入った。
『二人とも、大丈夫?さっき分かったんだけど、フリス星人の体液には、ホージーは触っちゃダメよ!』
スワンからだ。
「どういう事ですか?」
『男性が彼らの体液に触れると、性欲が際限なく増幅して、数日で衰弱死しちゃうのよ』
「…もう、遅いみたいです…」
短いスカートに隠しきれない脚を見つめるホージーの、男性の部分がみるみるうちに膨張していくさまが制服の上からでも分かった。
だが、わずかに残った彼の理性が、欲望処理の行動へ移るのを何とか抑えているようだ。
『ええ…?困ったわねえ…30分以内に毒素を取り除けば、一時的な興奮で済むんだけど、おそらくそこから動こうとはしないはず…』
確かに、彼の葛藤は徐々に薄れ、明らかに男性としての本能が勝りつつある。
「毒素を取り除くって、どうすればいいんですか?」
『言いづらいんだけど…女性の身体で、吐精させるしかないのよ』
「…分かりました、私がやります」
ジャスミンに迷いはなかった。

確かにホージーは異常な性欲に蝕まれてはいるが、ダーワのような劣情ではない。
欲望に任せるまま女性を道具のように扱おうとするケダモノとは違い、彼にはこの状況でも官能の衝動に抗い、ジャスミンを守ろうとする思いやりがある。
そういう清らかな性欲に、もはやジャスミンは恐怖も何も感じてはいなかった。
既視感を覚えた彼の目は、学生時代に彼女が見てきた同級生達の、純粋で健康的な、性への好奇の眼差しと同じである事に気付いた。
そして何よりも、今彼女が彼を救わなければ、それこそダーワのように劣情の権化になってしまうのだ。
「ホージー、聞こえた?すぐに助けてあげるからね」
「ダメだ…ジャスミン…」
ホージーは、スワンの言葉を聞いても必死に戦ってくれている。
「いいのよ、私に任せて…」
性経験こそ皆無だが、無意識に「教わった」性の知識は人並み以上にある。
そういった点では、昔の学友達に感謝すべきだろうか。
その記憶を頼りに、まずは窮屈そうなホージーをズボンの上からさすってやった。
「あぁ…ジャスミン…」
まだ実際の性経験を持たない少年達の、自慰行為の記憶。
既に最大限の硬さに達しているその部分は、衣服ごしに触れるだけで心地よさそうに痙攣する。
快感にうわずった声をあげ、ホージーの最後の理性は崩れ去ったようだ。
その一部以外の全身の力が抜けたかのようにヘタヘタと座り込み、ジャスミンの指使いに身を任せ出した。
布ごしに伝わるその感触は、鉄のように硬く、そして熱かった。
「直接、触って欲しい?」
小首を傾げ、優しく、そしてややいたずらっぽく尋ねる。
その所作も言葉も、一人の少年が妄想した女性のそれを真似たものだ。
それが、ピタリとホージーのツボと一致したのか、それとも単に刺激が欲しいのか、彼は目の奥に喜びの光を秘めながら頷いた。
『童貞の少年に性処理を施すお姉さん』を無意識的に演じ出したジャスミンは、にこりと笑ってジッパーをゆっくりと下ろした。

しかし、本心のジャスミンは倒れてしまうのではないかというほど緊張していた。
ついさっきダーワの禍々しい男根を眼前に突きつけられたとはいえ、それは地球人のジャスミンにとっては『動物の性器』を見せられたに過ぎない。
同じ地球人の男性の勃起した陰茎を、未だ肉眼では見た事はないのだ。
ジッパーの中には、青一色のボクサーパンツがあった。
と同時に、何週間か前に見た、バンの『赤い水玉パンツ』を思い出す。
あの時ホージーは皆と一緒に「パンツまで赤かよ…」と笑っていた。
なのに、本人も結局は自分のカラーを下着にまで貫き通しているとは…
ジャスミンも自分の色であるイエローは好きだが、その色のショーツは持ってはいなかった。
今、身につけているのは上下とも水色。
どちらかといえば、奇しくもホージーのカラーだ。
(そういえば、ウメコもピンクのを持ってたっけ…センちゃんも緑のをはいてるのかな?え、じゃあもしかして、テツは白いブリーフ??)
生まれて初めての性的体験を目の前にしながら、ジャスミンは妙な事を思い出してしまった。
しかし、結果的にはホージーの青いパンツのおかげで緊張が幾分和らいだ事になる。
「あれ?パンツにシミが出来てる…もう、エッチな我慢汁が出ちゃってるの?やらしい…」
『お姉さんモード』のジャスミンが、意地悪くホージーに囁く。
「早く、触って…」
当のホージーは、予想外に焦らされてしまい、切なそうにお願いをしてきた。
(こんな可愛いホージー、初めて見たかも…)
緊張が去った分、ジャスミンの中にふつふつと楽しさが湧き上がってくる。
いつも冷静にリーダーぶっているホージーが、今はジャスミンの指先一つで弄ばれている。
あと20分ほどしかタイムリミットはないが、彼女は時間ギリギリまでいじめてやりたい衝動に駆られた。
だがいかんせん、ホージーがどのぐらいの時間で絶頂に達してくれるのかが定かではない。
甘美ではあるが危険な賭けはさけ、とりあえず早急に射精に導かなければならない。
ベルトを外し、青い下着に手をかけると、ズボンとともに一気に膝あたりまで引き下げた。
途端に、解放を待ちわびていた陰茎が目の前に現れた。

「うわ、すごい…えと…マツタケ君?」
端から見れば男性器にニックネームをつけるその言動は滑稽に思えるのだろうが、本人は至って大まじめである。
初めて直視した人間のそれは、想像していたものよりも太く、大きかった。
性に目覚めたばかりの未成熟な少年達のビジョンしか持ち合わせていなかったのだから、無理のない事である。
しかし、大きさは違えど快感のポイントは変わらないはずだ。
『マツタケ君』の裏側、傘と茎の境目の辺りを指先で押してみる。
期待通り、ぴくりと痙攣し、快感の証である透明な体液を先端から溢れさせた。
「じゃあ、キモチ良くしてあげるからね…いっぱい射精してね…」
ホージーはもう殆ど意味をなした言葉を発さず、吐息と表情で返事をくれた。
再び緊張が彼女を襲う。
ジャスミンは、必死に少年達のオナニーの記憶を探った。
(えと…強く握っても痛くないんだよね…で、速く、リズミカルに上下に動かす…)
意を決して、そそり立つ肉の棒を右手でギュッと握り、上下にさすってみた。
「うあっっ!!」
…その呻きは、快感のそれではなかった。
「い、痛い!!」
「え、ゴメン、強く握りすぎちゃった??」
予期しない痛みのせいか、幾分ホージーの意識が戻っているようだ。
「違う…グローブが…」
どうやら、ジャスミンのグローブの皮革材が粘膜にこすれ、痛みを引き起こしているようだった。
ホージーを救うには、グローブを外さなくてはならない。
その事実を前にして、初めてジャスミンは逡巡を覚えた。
「いや、いいんだ…やっぱりやめよう、こんな事。自分でどうにかしてみせるさ。」
言葉とは裏腹に、ホージーの下半身は隆起したままだ。
アリエナイザーの能力によるものなのだ、意思でどうにかなるわけがない。
あのスワンが言うのだから、今ここにいる女性である自分が何とかするしかないのだ。
ジャスミンは、意を決してグローブを外した。
どんなビジョンが見えても構いはしない。
ホージーの命が一番大切なのだから。

「ジャスミン…」
「大丈夫、ちょっと心を覗いちゃうけど、ゴメンね…ホージーも、私の事触っていいよ…」
戸惑いを隠しきれない彼の腕をそっと取り、自らの胸元に導く。
能力を使わないよう、精一杯の自制を働かせているので、これぐらいでは心を読んでしまう事はない。
柔らかな胸に触れてしまったホージーは、もう一度性欲のスイッチが入ってしまったようだ。
指先で、無心に乳房をまさぐりだした。
と同時に、既に限界かと思われた彼の男根が、さらに一回り大きくなった。
自分の身体に触れる事で、男性が悦びを感じてくれているのだ。
その事実は、処女であるジャスミンにとってもくすぐったいような悦びを(ほんのわずかではあるが)与えた。
「では、改めまして…」
そんなかすかな悦びを押し殺し、ジャスミンは真剣な表情で右手をかざす。
その指先が再び彼の最も熱い部分に触れた瞬間、雪崩のように大容量の思念が流れ込んできた。
やはりこの部分にホージーの神経は集中されていた。
いくら能力を自制していても、これだけの強さの思念を前にしては、ジャスミンは乾いたスポンジと同じだった。
(な、なにコレ!?)
まず彼女の全身を貫いたのは、鳥肌が立つほどの快感である。
初めての性的快感は、想像以上という言葉ですら形容が追いつかないものだった。
身体の芯がジンジンと痺れ、皮膚が淡い桃色に染まり、そして彼女の下半身にも経験した事のない変化が訪れる。
と同時に、彼女の右手はもはや他人から得た記憶に頼る事なく、女性の本能の動きを以てホージーに刺激を与え始めた。
その刺激が彼にさらなる愉悦を与え、それがそのまま彼女にも跳ね返る。
天井知らずの官能の波の中、次第にホージーの別の思念もおぼろげながらビジョンを形作り始めた。
それは、ジャスミンの予想通り、テレサ──ホージーの悲恋の相手──の姿であった。

(やっぱり、忘れられないんだね…)
誰に性的快感を与えられようと、彼は意中の女性を思い浮かべている。
言いようのない寂しさを感じたが、こうなる事は覚悟の上だ。
それに、簡単に他の女性に心を許さない姿勢には逆に好感を持てる。
ジャスミンは、彼の中のテレサのビジョンを読み、彼女が恋人に与えた刺激の方法をコピーし始めた。
甘美な幻想の中で、今ホージーはテレサと再会している。
それを邪魔しないよう、彼女は自身を襲う陶然とした快感に漏れそうになる声を必死で抑えていた。
だが、そんな彼女に、思いもよらぬ新たなビジョンが流入してくる…
それは、テレサに対する想いの、さらに奥底に潜んでいた。
それもまた、女性の顔を作り上げていく。
その顔は…彼女が毎日のように鏡の中で出会う顔だった。
(わたし…??)
予想外の思念の登場に戸惑いながらも、ジャスミンはその詳細を探り始めた。

────数年前、デカベースにジャスミンがセンちゃんとともに赴任してきた日の事だ。
創設したばかりの宇宙警察地球署は、ボスとスワン、そして新任間もないホージーの三人でやり繰りしていたが、アリエナイザーによる犯罪の増加を受け、補充要員として彼女たちが養成所へ派遣され、凱旋した。
そしてその日…ホージーは、ジャスミンの古風な面を知って恋をした。
だがいかんせん、彼はプライドの高い男だった。
仕事と恋愛を混同すまいという思いの強さから、彼は同僚への恋を行動に移そうとはしなかった。
そして、何年か経ち、ホージーはテレサに出逢った。
彼は彼女にも古風な匂いを感じ、そして恋に落ちた。
もちろん本気だった。
だが、心の奥にいるジャスミンへの慕情も消えはしなかった。
ひょっとしたら、古風だからテレサを好きになったのではなく、「古風な面がジャスミンに似ていなくもない」というのが本意だったのかも知れない。
そしてダーワの卑劣な攻撃によって性欲の虜になってしまったホージーを、ジャスミンは貞操を賭けて救おうとしてくれている。
今、彼の彼女への想いは確実に再燃し始めていた。

…そんなホージーの想いをジャスミンは読みとった。
信じられない。
だが、彼女の右手は嘘をつかない。
信じて良いのだ。
彼の気持ちは今、彼女だけを見ている。

そして、ジャスミンもまた自ら心の隅に追いやった記憶を思い出す。

────昔、少女だった彼女はボスに淡い恋心を抱いていた。
生まれ持った特殊能力のせいで荒んでいた彼女を、ボスは偽りのない気持ちで救ってくれた。
彼女がSPDに入る決意をしたのも、彼がいたからこそだ。
そして養成所で2年ほどを過ごし、もう少女とは呼べなくなった頃には、ボスへの想いは恋愛感情ではないと気付いた。
彼を慕う気持ちは全く変わらないが、それは幼い娘が父親に向けるそれと似ていた。
現に、地球署で働き出してから、彼には白鳥スワンという特別な存在と呼べる女性がいる事を知っても、嫉妬の念を持ちはしなかった。
彼女が初めて恋をした相手は、『茉莉花』という名前を持ち前のセンスで『ジャスミン』という英語のあだ名に変えてくれたキザな青年だった。
彼は今まで出会った事のないタイプの男性だった。
養成所の同期生であるセンちゃんも初めてのタイプではあったが、彼はどちらかと言えば自分と似ている。
一風変わった英語を操る青年は、クールに見えて熱く、リーダーシップと責任感を持ち、そして何よりも気持ちに裏表がなかった。
いわば、ボスの父性の部分だけを取り除いたような若者だった。
しかし、彼女もまた恋心を押し殺す。
その能力ゆえの人生経験から、自分には恋愛など許されないと考えていたからだ。

…そうして忘れていた恋心と、ホージーの気持ちの二つが今、ジャスミンのハートを支配した。
右手から伝わるホージーのハートも、もうジャスミンへの気持ちだけで一杯だ。
(本当に私には、恋愛は許されないの?)
二人の偽りのない気持ちは、再び湧き上がった自問自答の結論を出すのには充分な材料だった。
(この人とならきっと分かり合える…)
ホージーは、アリエナイザーの毒素に支配されながらも、愛撫してくれているのが他の誰でもなくジャスミンであるという事を心から悦んでいる。
彼の心が、『お姉さんジャスミン』でも『疑似テレサ』でもない、『礼紋茉莉花』を欲していた。
本来の彼女にして欲しい事が正に手に取るように分かる。
彼女は頷き、目を閉じた。
すると動けないはずの彼が、渾身の力でゆっくりと上体を動かして…唇を重ねてくれた。
柔らかな粘膜を通して、ジャスミンの頭の中にホージーの声がはっきりと聞こえる。
「好きだよ、茉莉花…」
ゆっくりと互いの唇をむさぼり合った後、ホージーは今度こそ脱力した。
「宝児…私も…好きだよ」
自由になった唇を彼の耳元に近づけ、生まれて初めての告白をした。
「もう、時間がないね…」
そう呟くと、彼女はもう一度自分からキスをし、そのまま右手に握られた彼の男性の部分にもキスをした。
それからそっと口を開き、熱く火照ったそれを含む。
粘膜どうしだと飛躍的に伝達効率が上がるのか、これまで以上に爆発的な愉悦が彼女になだれ込む。
この快感は、つまり彼が感じてくれている快感でもあるのだ。
(私の口で、こんなに感じてくれてるんだ…)
今度の彼の快感は単なる性的刺激によるものだけではなかった。
想いが通じ合った喜び。 嬉しさ。 安堵。 幸せ。
人間が持ちうる全てのプラス方向の感情が彼の中に、そして彼女の中に充満している。
ジャスミンの中では、その二人分の全てがないまぜになって、彼女の幼い官能は無限大に高められていく。
そして遂に…ホージーが果てる瞬間がやってきた。
口いっぱいにほおばる灼熱から、彼女の想像を遙かに超える衝動が伝わってくる…
(え、え、何コレ?? なんか、出ちゃうよぉ…)
男性の射精直前の官能を、彼女は彼と同時に味わう。

「あぁ、茉莉花っっっっっ…」
二人は、コンマの狂いもなく同時に、同じだけの快感を以て果てた。
口腔内に白濁の迸りを受けながら、ジャスミンの男を知らない部分も激しく痙攣し、絶頂を迎えた────


────『ジャスミン、ホージー、返事して!』
どのくらいの時間が経過したのか…二人は、情事の後の気だるさの中、しばし朦朧としていた。
二人のライセンスから、スワンの不安げな声が聞こえる。
「はい、こちらジャスミンです。」
『ああ、ジャスミン!もう30分経っちゃったわよ?ホージーはどう?』
そうだ、果たして間に合ったのか。
ホージーを見ると、ちょうど目を覚ますところだった。
彼は、生気のない虚ろな目で彼女を見上げる。
(間に合わなかったの…?)
彼は、ゆっくりと右の目をウィンクさせた。
「…大丈夫です、今度こそ、本当にコンプリートです…」
後半は泣き声で聞き取れなかっただろう。
『そう、良く頑張ったわね…とにかく、早く帰ってらっしゃい』
「分かりました。 二人で、帰ります」
安堵で泣きじゃくるジャスミンの変わりに、ホージーが答えた。
「…ジャスミン、ありがとう…」
自らの力で立ち上がった青年の胸に、彼女は顔をうずめた。
「…本当に、ありがとう…それと…愛してるよ…」
彼の口からと、胸からと、同時にその声が聞こえた。
「まあ、あれだな…俺が青で、ジャスミンが黄色だから、俺達の信号は、決して止まる事はないさ。 ずっと二人で、一緒に歩いて行こう…」
ジャスミンが泣き笑いの表情でホージーを見上げる。
「ホージーって、英語を使わなくてもキザなんだね」
「そ、そうか?」
「でも、嬉しい。 私も愛してるよ、ホの字だよ、胸キュンだよ…」
「フッ、ジャスミンも相変わらずだな…さあ、デカベースに帰るぞ」
二人は階段を下り、ハスキーにまたがった。
「でもホージー、赤信号がいらないなんていったら、相棒がまたうるさいよ?」
「…相棒って言うな…」
走り出したバイクに振り落とされぬよう、茉莉花は宝児の背中にしっかりと寄り添う。 彼らの行く道には、見渡す限りの青信号が続いていた。
〈おわり〉
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