Episode46.x 『サニーガール・ヒズトリック』(緑桃・緑視点) 目次に戻る
「セ〜ンさんっ、あそぼv」
いつまでも止まないノックの音に辟易してドアを開けると、30センチ下にまぶしいひなたの笑顔。 毎日毎日よくもまあ飽きないもんだと半分呆れ、
半分は、期待している。
「ねー今日は何しよっか?こないだのゲームわたし負けっぱなしだよねぇ、リベンジしたいなー」 いいもダメも言う暇など与えられず、細く開けたドアの隙間からするりと滑り込んできて腕を絡ませる。 お風呂あがりなのだろう、すべすべとした肌がまだしっとりと暖かい。
・・・頭が痛い。 くらくらして。
「あのね、そういうこと、気安くしちゃいけないの」 「なんでよぅ」 やんわりと腕を引き剥がして頭を撫でつつ言って聞かせてやると、ぶーっと唇を膨れさす。 (なんでって、決まってるじゃないか) まだ水気を含んだ艶やかな洗い髪が、束になって揺れる。 パジャマ代わりだろう、薄手のTシャツからうっすらと身体のラインが透けて見えるような気さえする。 (・・・やばいなぁ、これは) 悟られないようにゆっくり目線をそらし、ちいさくちいさくため息をつく。
彼女はひなた。 そこが一番良く似合う。 だから、今のまま、ありのままの姿でいて欲しい。 ・・・だから、これ以上は勘弁して欲しいのに。
なんでなんでと囃し立てる彼女を軽く睨んで、 「デカレンジャー同士、同じデカベースの中とはいえ、男のプライベートルームに簡単に遊びに来ちゃいけません」 め、と付け加える。 たちまちしゅんとなる彼女を見ると心が痛むけれど、ここはぐっと我慢。
「・・・いいの」 「だーめ」 ほら帰って、と背中を押す。
たちまちその手をすり抜けて、彼女の身体が腕の中に飛び込んできた。 「いいの!だってわたしセンさんのこと好きだもん」 ・・・げほっ。 「センさんだってわたしのこと好きでしょ」 げほ、げほげほ。
直球。 俺には到底使えない話術に、沈没。 ・・・してる場合じゃないか。
「やっとわかったの、あんなにわたしのことわかってくれてるなんて!センさんずっとわたしのこと」 「ちょちょちょ、待っ」 慌てて遮る。 これ以上煽らないでくれ、頼むから。 「じゃ、なんでわたしのこと、そんなに知ってるの?」 ちょん、と首をかしげて見上げられると、理性なんてあっという間に砕けて散らばってしまいそうになる。
「えーと、その・・・そういうわけじゃないよ」 嘘だ。 頬が熱い。
え、と唇が震える。 ・・・ごめんね。 心の中で謝りながら、少しだけ上を向いて続ける。 「今まで仲間として見てきて知ってるところもいっぱいあるし、それはたった3ヶ月の付き合いの奴に負ける自身なかったし、実際負けなかったし」 見られない。 「だからもしジャスミンが騙されてても、同じだけのことが言えたと思う」 彼女の顔が、見られない。 「それにね、誰だって隠れてる顔があるよ。いつも見てるのと反対の顔。だからウメコだったら、強く見えても繊細で、傷つきやすくて・・・」 「・・・じゃあ・・・特別わたしのことを見てて、わかってくれてたんじゃなかったの?」 「んー」 ぼりぼりと頭を掻いて、はたと気がつく。
・・・今、聞こえた声は、涙声じゃなかったか?
彼女が傷つきやすいって、痛いほどわかってるのに。 たった今、自分が傷つけたんじゃないか?
ありのまま、ひなたの似合う彼女を曇らせた。 泣かせた。 俺が。 たったひとりの、たいせつな、大好きな女の子を。
気がついたときにはもう遅かった。 顔を覗き込むと同時に、固く瞑った目蓋から痛々しいほどにぼろぼろ零れ落ちる涙。
取り返しのつかないことをしたと思った。 もうこれで、彼女が俺を見てくれることはなくなるだろう。 今までの、同僚としての付き合いに戻って、それで。 それで?
・・・嫌だ。 そんなのは、嫌だ。
彼女を泣かせた自責の念と、このままでは始まらずに終わってしまう、 そのことへの恐れで鼻の奥がつんとして視界がじわりと滲んで言葉が出ない。 口を開けば、迂闊にも涙が溢れそうで。
俺の沈黙をどう受け止めたのか、彼女は俺の肩にとん、と手をついて離れると顔を伏せた。 「・・・ごめんねセンさん、迷惑だよね、こんな、思い込みだけで押しかけて、告白とかしちゃって・・・ごめんなさい。忘れていいから・・・ね」
背を向ける彼女。 震える手がドアのスイッチに触れる。
無機質な音を立てて、ドアがすっと開いた。
違うよウメコ、ただ、このままだときみをどうにかしてしまいそうで怖かったんだ。 好きだよ。ほんとはずっと見てて、ずっと好きだった。 あかるい笑顔もちいさな身体で必死に戦う姿も。 楽しいことがあったなら、真っ先に俺に話して。一緒に笑おう。 つらいことがあって泣きたいときは、俺がそばにいるから。
これからずっと、そばにいるから。
何をしたのか、どうしてこうなったのか、自分でも信じられない。 今にも閉まろうとするドアを左腕でむりやり止めて、 右腕と身体ごとすべてで、彼女の身体を抱き締めていた。
やっぱり声は出せない。 喉の奥が熱くわだかまったまま、ただ抱き締めた。 こんなことで伝わるはずはないのに。
彼女を抱き締めたまま、部屋の中に引き戻す。 逡巡したようにしばらく開いたままだったドアは、やがて元通りに閉まっていった。
「やだ、離して・・・」 抵抗する彼女の肩に額を擦り付けて、首を振る。 今離したら彼女はこの部屋を出て行って、すべてなかったことになる。 「すきじゃないんでしょ、しないでよぉ・・・こんなこと」 きちんと言葉にして伝えなければ。 彼女がそうしてくれたように。
「・・・ごめん」 彼女の身体が強張った。 「謝るくらいなら、しないでよぉっ!」 「違うんだ!」
泣き叫ぶような彼女の声を遮るように、大声を上げて封じる。
「違うんだよ、ほんとは俺・・・ウメコのことが、す」
涙が零れた。
「好きなんだ」
ふたりのまなじりから、同時に。
どんな言葉よりも雄弁に、俺の頬をひとすじだけ涙が伝っていく。 彼女は、驚いたように目を丸くした。
「ほんと・・・?」 「うん、ほんと。さっきまでのが、嘘」 「・・・ひどい」 「ごめんね」 後ろから彼女を抱き締めたまま、すこし乾き始めた髪を指先で梳いてやる。 「なんで、うそついたの」 「・・・それはちょっと・・・」 言えない。 きみをどうにかしてしまいたいだなんて。 ひなたの似合うきみに、いちばんひなたにふさわしくないことを望んでるだなんて。 「好きなら・・・好きなのに、ほんとのこと、言ってくれないの」 「言ったら、きっとウメコは俺のことを嫌いになるよ」
息が詰まる音が聞こえた。 彼女がくるりと振り返り、俺の両腕柔らかそうな白い手でしっかりと掴む。
「ならないよ!わたしセンさんが好き、センさんしか好きにならない!これからずーっと、好きだもん!!」 俺をまっすぐ見つめてくる、まだ少しだけ濡れた強気な瞳。 「・・・ウメコ」 「何があったって、センさんのこと嫌いになんかなるわけないじゃん・・・」 細い腕を俺の身体いっぱいに回して、抱き締められた。
「あ・・・えと・・・」 もう限界だった。 と同時に、頭をもたげる期待。 同じことを考えてくれていたらという、虫のいい期待。
「・・・じゃ、証明してよ」 「え」 頬を流れた涙のあとと、そこに張り付いた髪を払う。 すべすべと柔らかい頬に触れて、ぷくりと艶やかな唇をなぞった。
「何があっても俺のこと嫌いにならないって、証明して」
唇を近づける。 彼女は、そっと瞳を閉じた。
今までにいくつかの場数を踏んで、キスは甘いだなんて幻想は砕かれていたけど。 今日のこの瞬間のキスは、きっと一生忘れないくらい、やわらかくて、甘かった。
とにかく、夢中だった。 唇のやわらかさを、ありとあらゆる方法で味わいつくす。 傷つけないようにそっと甘噛みしたら、彼女の細い肩がぴくりと震えた。 ぞくぞくする。 彼女が俺の腕の中で、俺のキスを受けて震えている。 きつく掻き抱けば、細い腕はまるで真似をするみたいに抱き締め返してくる。
こんな幸せがあるだろうか。 唇を離すと、彼女は息をつきながら照れくさそうに笑った。
「へへへ、キス・・・しちゃったね。センさん」 「しちゃったねえ」
照れ隠しに、思わずほのぼのと笑い返してしまう。 笑いながら、きつく抱き締めた。 もっとキスをする。 頬に。こめかみに。鼻先に。まぶたに。額に。 「や、ひゃははっ、くすぐったいよぅ〜」 「・・・こら」
けらけら笑い転げる彼女を、ひょいと抱き上げた。 さすがに驚いたみたいで慌てて首にしがみついてくる。 「あははは、なに、どーしたのーセンさーん」 問いには答えずに、悠然と歩を進める。 部屋の片隅に置かれたスチールベッドまで。
さすがに彼女もおぼろげながら状況を察したのか、笑い声が止まる。 腕にすこし、力が篭った。
「よっこらせっと」 チャコールグレイのシーツの上に彼女を横たえて、覆い被さる。 部屋の電気は煌々と点いたままだ。 ああ、こういうのって女の子、嫌がるんだっけ。 慌ててサイドボードのパネルを探ってスイッチに触れると、一瞬で暗闇が訪れた。 「うわ、なに?」 慌ててしがみついてきた彼女に、苦笑する。
ねぇ。 これから俺になにをされるか、ほんとにわかってる?
「ウメコ」 「・・・なーに」 「えーと、その」
・・・いまから、えっちなこと。するからね。
耳元でささやくと、彼女の顔が湯気さえ立ちそうに真っ赤になった。 見えないけど、そんな気がした。
好きだよ。 大好き。 触れたそばから肌が熱くなって、なんだか甘い匂いがする。 入浴剤とか、そういうのかな。 それともきみの匂いなんだろうか。 キスで絡み合う吐息も、はちみつみたいに甘い。
ここなんか俺の手の中にしっくり納まって、 俺に触れられるのをずっと待ち焦がれてたみたい。 掌で覆うと、マシュマロみたいにやわらかい。 そして、中心あたりに、こりっと固い感触。 ・・・ああ、もうこんなになっちゃったんだ。 恥ずかしいよね、ごめんね。
でも、触れたい。見たい。息がかかるほど近くで。 きみのぜんぶを見せてほしい。 触れさせてほしいんだ。
自分が上手だなんて、とてもじゃないけど思わない。 だけど、触れるたびに確実に反応が返ってくる。 首筋をなそればふるりと震え、 乳房を揉みしだけば熱い息を吐く。 その先端に吸い付けば、もっと熱い声がこぼれる。
たまらない。 どんなブルーフィルムよりも、もっともっと蟲惑的。
頭にはくらくらと血がのぼり、もっと触れたくなる。 俺の中心に熱いものがわだかまって、もっと欲しくなる。
彼女は荒い息を吐きながら、俺にしがみついてくる。 何かを告げようと口を開くのを察して、耳を口元に持っていった。 「・・・や・・・こわいよぉ」 気がつけば俺にしがみつくその身体は、小刻みに震えていた。 「俺が、怖い?」 「ちが、そうじゃな、くって・・・ね、なんか言ってよぅ・・・」
まっくらやみで・・・声まで聞こえなかったら、センさんがわからない。
小声でささやかれて、欲情するまま自分本位に動いていたのが急に恥ずかしくなった。 「・・・ごめん。そうだよね、怖かったね。ごめんねウメコ」 頭を撫でてやると、安心したように身体が弛緩していく。 暗闇に慣れた目に映るのは、嬉しそうな笑顔。
その笑顔を眺めていたらなんだかもう、充分過ぎるほどに満足してしまった。
同時に襲ってくる、心地よい眠気。 ひとつ大きなあくびをして、彼女を抱きかかえておでこをこつんとあわせた。
「・・・今日はもう寝よっか」 「え」 いいの?と彼女が首をかしげる。 俺は、深く頷いた。 「怖がらせてまですることじゃないからね、ゆっくり、順繰り。ね」 ぽんぽん、と背中をあやすように叩く。
彼女はなぜか腑に落ちないような顔をして、 それから、うー、とちいさく唸り出した。
「どうしたの」 「・・・やだあ」 「なにが」 「センさん、ひどいよぉ」 「・・・だから、なにが?」
・・・困った。 うーうー唸り出した彼女を前に、どうしたものか思案する。 「ねえ、言ってくれなきゃわかんないんだけど」 「やだっ」 「やだ、って・・・」 「だってこんなの、恥ずかしくて言えないよお」 「・・・んー?」
パズルのピースが増えていく。 肌が熱くなるほどに施した愛撫。 中途半端に中断された行為。 『やだ』『ひどい』。 そして、『恥ずかしくて言えない』こと。
・・・まさか。 一瞬浮かんだ答えを振り払う。
だっていうのに、彼女は、 決定的なひとことをその唇に乗せた。
「・・・ほんとに、しないの?・・・その、さっきの、続き・・・」
潤んだ瞳。 赤らんだ頬。 ・・・そして、乱れた衣服のあいだでもじもじと擦り合わされる両腿。 緩みそうな口元を手で覆った。 気付いたことに、気付かれたくない。
「・・・いや、俺はだいじょうぶ。ウメコのほうが大事だよ」 「だって、センさん・・・その、まだ」 そう言われると、赤面するしかなかった。 さっきの愛撫で十分すぎるほどに勃ち上がった俺自身はまだ衰えを知らず、彼女のすべらかなおなかをつついている。 「・・・だから・・・いいよ。センさんがしたいなら」 赤面した俺をとろりと濡れた瞳で見つめて、彼女は言葉を続ける。 「あのね、その・・・男の子って、そういうふうになっちゃったらもう止められないって、雑誌で読んだから・・・いいよ、わたしは平気だから」
なるほど。 男の生理を盾にして、てわけね。 その手には乗らないよ。残念だけど。
きみの声で、きみの言葉で、 俺を求めてくれなきゃ、嫌だ。
「いや・・・ウメコの気持ちは嬉しいけど、それは聞けないなぁ」 きゅ、と彼女の眉が寄って、すこし寂しそうな表情になる。 「・・・でも」 向かい合って寝転がった体制から一気に身体を起こして、鼻と鼻がくっつくくらいに顔を寄せた。 彼女が息を飲む。 「・・・でも・・・?」 「ウメコがほんとに望んでるならね。ちゃんと、してあげる」
だから言ってごらん。 欲しいって。 俺が欲しい、って。
「・・・いじわるぅ・・・」 「うん、ごめんね」 もう、口元の緩みが隠せない。 真っ赤な顔をして、やっぱりうーうー唸ってる彼女の髪を撫でる。
根負けした彼女がもうほとんど吐息なんじゃないだろうかってくらいにちいさなちいさな声でささやいた言葉は、 俺と彼女だけの、秘密。
仔犬同士が戯れるように、俺たちは抱き合った。
身体中にキスをして、身を捩る彼女をきゅっと抱いて、 笑って、またキスをして、どんどん深く。 深く深く。 舌を探って、絡めて、噛んで、吸い尽くす。
同時に、指先で身体のラインを辿る。 背中をくすぐるように撫でて、ホックを外した。 こどもみたいにちいさな身体も、脱がせてしまえば立派な大人。 まろやかな丸みを帯びた胸に、今度はそっと触る。 その頂きをそっと撫でてやると、彼女の喉がく、と鳴る。 「・・・ああ、これ?きもちい?」 「や、センさ・・・ふぁあっ」
声をかけてやるだけで、瞳がどんどん潤んでいく。 でも嫌がってるわけじゃない。 愛撫を続けたまま、ちらりと下を覗く。 気付かないフリをしてあげてるけど、さっきから、凄いことになってる。 昼間の元気で明るい彼女からは想像も出来ないほど・・・凄い。
・・・ええと。 なんていうか・・・びっちょびちょなんだよね。シーツが。
俺がそこばかり凝視してるのに気がついたのか、彼女が抗議の声を上げる。 「やだぁ、見ないでよお・・・」 「や、見るよ・・・ウメコのここ、すごいねぇ」 もう役目を果たさないほどしとどに濡れた薄い桃色のショーツの上から、『彼女』を探る。 ぬちゅ、という音と、柔肉が震える感触。 彼女の背筋が弓なりにしなる。 「あ、やあああっ」 「ほんとにやならやめるよ」 指を外すと、彼女はためらいながら、ちいさくいやいやをした。 「・・・センさんのばかぁ・・・」 「うん、馬鹿かもしれない」 力の抜けた身体をすこしだけ持ち上げて、ショーツに手を掛けた。 するりと抜き取ると、透明の糸がつぅっと伝って落ちていく。 「・・・でも、欲しい。ウメコもそうでしょ」 熱くてとろとろのソコを指でまさぐって、ちいさな芽を探り当てた。 蜜をぬるぬると擦り付けながら、くるくると撫でまわす。 「ん、ふやああああっ」 同時に、ごぷり、と吐き出される蜜。 「ねえ、そうだよね」 「・・・は・・・あ・・・う、ん・・・うん・・・」 真っ赤な顔をした彼女が、かすかに頷く。
ふるえる唇が、ちょうだい、と動いた。
「――――――っ」
これで我慢できる男がいたら、お目にかかりたい。 ひく、ひくと収縮を続ける柔肉に、みっともないほど怒張した自身を擦り付けた。
「あ・・・」 彼女の肩が震える。 「こわい?」 「ううん、こわくないよ・・・センさんだもん」
ぎゅっとしがみつかれて、きつく抱き返す。 自身に手を宛がって、いりぐちへと導いた。
「・・・だいじょうぶ?」 「・・・ん・・・」 「無理強いはしないから。痛かったら、ちゃんと言って」 「・・・うん」
きゅっと目を瞑った彼女が、途方もなくいとおしい。 たまらなくて、ちゅっとついばむようにキスをした。
「ほんとに、言ってね」 「・・・センさん・・・もういいよ」 彼女が、くすりと笑って見つめてくる。 「・・・うん。ごめん」
言い終わるより早く、もう一度唇を重ねて。 そのまま、俺を、彼女の中に、 ゆっくり埋めた。
世の中じゃよく、女の子が『初めてかどうか』を気にするけど、 とにかくそんなものはどうでもよかった。 ・・・というか、もし『初めて』じゃなかったら、と思うと、 聞きたくても聞けなかったって言うのが本音かもしれない。
だけど、これがまぎれもなく『俺と彼女の初めて』だから。 せめてそれに相応しいように、精一杯優しく抱くと決めていた。
「くぅ・・・」 「・・・いたい?」 「ん・・・ちょっと、いたいけど・・・へいき」 うっすら涙の浮かぶ目でふにゃ、と微笑む。 「動いて、平気?」 「・・・ん」 少しでも痛みが逸れるように、少しでも気持ちよくしてあげたくて、 彼女の胸に触れる。やわやわと揉む。 その行為が、彼女だけでなく俺までも高めていく。 「んは、ああっ・・・っくぅ・・・ん・・・」 嬌声があがるたびに、俺を受け入れた彼女がきゅっと窄まる。 すぐにも達してしまいそうな快感。 収縮する合間を縫って、彼女の中を動く。 ゆっくりと引いて、引っかかったところでまたゆっくりと挿れていく。 「ん、ん、ん、んんんうっ、あ、ああ、センさ、ん・・・っ」 「・・・きもちいい?」 俺の問いに、喘ぎながら彼女はがくがくと頷く。
もう、大丈夫かな。 ギリギリまで引き抜いたところで、一気にぐ、と押し入った。 「っきゃあああああんっ!」
途端にものすごい声が上がって、冷や汗が流れる。 痛かったのか、まだ早かったかと慌てて抜こうとすると、離すまいと締め付けてきた。 どくん、どくんとまるでソコが心臓になったみたいに脈を打って、俺を刺激する。 「あ、はあ、あ・・・センさぁん・・・」
とろりと潤んだ瞳に、痛みの色はない。 それでも恐る恐る問いかける。
「・・・いたく、なかった・・・?」 「うん・・・すごい、ずんってして・・・きもちいいよぉ」 腕が首筋に絡みついてくる。 そして、きもちいい、ともう一度囁いた。
理性は、そこで焼き切れた。
「あああ、あ、あ、あああああんんっ、ああっ、あっ、センさ、ああああ」 「・・・く、ウメコ・・・っ」
もっともっとと訴えるように収縮するそこに、深く、浅く、遠慮なく何度も何度も打ち付けて。 ひっきりなしに喘ぐ彼女の声はどんどん高くなり、半分泣き声にすら聞こえる。
とっくに限界を超えてすぐにも暴発しそうなほどに渦巻いた情欲の証を、 ずっとこの快感を味わっていたいと押さえ込む。 それを彼女は許すまいと深く咥え込み、刺激し、まとわりついて離れない。
「や、あああ、やああ、だめ、だめえ・・・も、だめえええっ」 掻き抱いた彼女の身体がびくびくと痙攣する。 ・・・彼女が絶頂へと近づいている証。
俺も、限界だった。
「んんっ・・・わ、わたし、あ、も・・・あ、あああああああああああっ!」 「く、――――――ッ!」
絶叫にも似た嬌声と同時に、 ぎゅうっと絞られるように強く締め付けられた。 それと同時に彼女の中で迸る、俺の慾の証。
・・・ああ、そうか。そうだった。 ゴムの存在がすっぽり頭から抜け落ちていたことに、いまさらながら気がつく。
ま、いいんだけどね。 いざとなったら、『寿退社』? それとも、子供を抱えて共働きデカ夫婦? どっちも、きっと楽しいに違いない。
息を弾ませたままにやにや笑ってたら、同じく息を弾ませた彼女が訝しげに眉を寄せた。
「ちゅっちゅっちゅーらーぶらぶー」 ぴたん、ぴちょん、と水滴の音。 ふわりと漂う湯気は甘い甘いバニラの匂い。 彼女がとぷんと放り込んだボールみたいな入浴剤から、ハートの紙ふぶきが溢れてそこらじゅうに浮かんでる。
そんなに広くない真っ白なバスタブで、俺の胸に背中を預けてもたれかかってる彼女。
「んーご機嫌だねぇウメコー、さっきまでとは大違い」 「もおセンさん、それ言わないでよー」 ざば、と音を立てて振り返った彼女の頬はほんのり桃色。 「だいたい、センさんが!・・・その・・・中で出すからいけないんじゃん・・・」 「うん、それは、ごめん・・・もうしないから。誓って」
「なんかべたべたしてきもちわるいよぉ〜」って半べそかいた彼女を抱えて慌ててバスルームに飛び込んだのは、ついさっきの話。 さらに言うなら、洗ってあげるときもひと騒動あったんだけど・・・まぁ、それはいいか。 しかし、しっかり奥に出しちゃったわけだし、どれだけ洗ったって無駄なんだろうなぁ・・・
この数十分のあれやこれやを思い出してるうちに、百面相状態になってたらしい。 気がつくと、彼女が至近距離から瞳を覗き込んできていた。
「なに、センさん。変な顔して。さっきからどうしたのよう」 「いやー・・・出しちゃったもんはしょうがないんだけどさ。どうしようかなって」 彼女が、ん?と首をかしげる。 「だからさ、もし、もしも・・・その・・・こどもができたら」 それだけ言うのに、恥ずかしいけどすごく緊張する。
なのに彼女は、どうってことないみたいににこにこ笑った。
「そうだねえ、どうしよ、名前」 「うん、どうし・・・て、え?なまえ?」
今度は俺が赤面する番だった。
「うん、どうしようねえ、やっぱり小梅ちゃんとしては女の子がいいなあ、そおだなぁ・・・小桃・・・とか、どうかなぁ?かわいくない?」 「ど、どどど、どうっていわれても」 赤面した挙句、言葉がうまく出てこない。 「男の子だったらセンさんが考えるんだよ?かぁっこいい名前付けてねー」
ざぱあ、とお湯を押し流して、彼女が俺に抱きついてきた。 ハートもゆらゆら散らばって、バスルームそのものがピンク色に染まったような錯覚を覚える。
・・・そして、柔らかな身体に密着されて、なんとなーくもよおしてきた。 彼女の腰に腕を回し、おでこをこつんとあわせて。 やだ、と呟く彼女はくすくすわらってる。 その柔らかい唇をふたたび味わおうと、頭を抱き寄せ、 そして。
無情なコールが、唐突に割り込んできた。
『ポイント104でアリエナイザーによる立てこもり事件発生。各自急行せよ』
・・・ああ、もう・・・せっかくこれから、
「ああぁやああ――――んもおおおっ!!」
俺の心の声を遮り、思わず身をすくめてしまうほどの大声をあげて、彼女はざばっと立ち上がると飛び出していった。 俺も、急いで後を追う。
「もおぉ、なんでこんなときに!ゆるせなーい!!」 すでに下着一式を身につけた彼女が、ハイネックのシャツに腕を通しながら叫ぶ。 俺は、多少引っかかる俺の息子に詫びつつのんびりとぱんつをはきながら深く頷いた。 「んー、確かにこういうところで邪魔されるのは腹立つねぇ」 「そうでしょー、ってセンさんっ、はやく着替えて!」 ・・・どんな神業か。 すでにきっちりとユニフォームを着込んだ彼女が髪を結いながら俺をせかす。 慌ててTシャツを被りパンツを穿き、ジャケットを引っつかんで駆け出した。
「「エマージェンシー!デカレンジャー!!」」
そして、戦いに赴く。 立てこもったアリエナイザーを説得・・・するはずのネゴシエイター本人が激昂してるわけだから、当然話し合いは決裂。 ・・・かと思いきや、コブシにものを言わせた彼女がアリエナイザーを一発ノックアウト。 体格が倍以上違う相手を一発で殴り倒す姿は、ちょっと圧巻だった。
同時に、絶対逆らわないようにしようとひそかに決意したりして。
まぁ、そんなわけで俺は今、仁王立ちの彼女の足元にはいつくばって気絶したアリエナイザーにD−ワッパーを装着しているところだったりする。 言うまでもなく、マッハで。
「うわ、すっげぇ・・・へこんでるよここ、ほっぺたんとこ」 「What a
surprise・・・なんてこった」 「呆れたたまげた、驚いた」 「理論を越えた戦い、再々来・・・ナンセンスです・・・」
みんなの声が頭上から聞こえる。 俺も作業を終えると立ち上がり、変身を解く。 彼女も変身を解いた。
「・・・よっし」 「終わった?」 「うん、じゃ・・・ね」 「うん!」 目配せしあって、くるりとみんなのほうを向き直る。
「「これにて一件コンプリート!」」
コンマ1秒のズレもなく、大声で宣言する。
「え」 「・・・オイオイ」 「なんか・・・」 「どっかで、この展開」
「・・・それじゃ、あとはよろしくねぇーっ!!」 「そういうわけだから、じゃ。みんな、ごめん!」
「「「「ええええええ!!!!??」」」」
くるりときびすを返して、しっかりと彼女の手を握る。 瞬間、どよめきと喚声があがった。
「チキショー、なんで、いつの間にっ!センちゃんのヤロー!」 「まーまー、いいんでないの?」 「そうだな。男の嫉妬は醜いぞ、バン」 「え、先輩、ウメコさんのこと」 「ちっが、違う!そうじゃなくってー!職場恋愛ってアリ?アリなの!?」 「そんなの問題ナイナイ。いったい何時代の話してるの、バン?」
俺たちは駆けていく。 遠くなる喧騒に、目配せをして、くすくすと笑いあう。 楽しい。 とんでもなく、どうにかしそうに楽しい。
・・・きっと、これからも楽しいんだろうね。 眼下に揺れるポニーテイルを眺めて、目を閉じる。
きみの手を握って、これからずっと。 ぽかぽかとあたたかいひなたの中を、 ふたりで、笑って、 歩んでいこう。
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