緑桃(桃視点)(未完)

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ああ、どうしよう。どうしようったらどうしようっ!
胸のこの辺りがキューってなって、ドキドキして、頭まっしろ、足もとふわふわ
こんなんじゃ仕事にならないよぉぉ・・・
ひとつ大きなため息をついたところに、センさんが書類ケースを手にやってきた。

「ウメコ、お待たせ。そろそろ行こうか・・・って、どうかしたの?」

マシンブルの運転席に乗り込みながら、センさんが心配そうにあたしに声をかけた。
センさんはまだ、あたしがあの結婚詐欺師に未練があると思ってる。
このため息も浮かない顔も、きっとみーんなそのせいだと思ってる。ばかばかっどんかんっ
ほんとはそうじゃないけど・・・そうかもしれないって心配してくれる、センさんの気持ちはうれしい。
子供扱いされてるみたいで、前はヤだったのに、あたしってばヘンなのっ!
ドキドキ止まらなくって、頭ぽーっとなっちゃって、まるで恋してるみたい
マシンブルで見回りに行くときなんか、二人きりだからもうほんとほんっとタイヘン!!

・・・ってコイっ!?恋??
この言葉が浮かんだ瞬間、あたしの頭は完全にショートしちゃったみたい
見回りをしてたはずの数時間の記憶、ゼロ。ホージーさん風に言うならナッシング!ありえないっ

気付いたらあたしのウチの近くの路地で、勤務時間は終わってた。

「ウメコ、ここで降りてっていいよ。ウチ、近くでしょ?今日はもう、このまま帰りな」

日誌は俺がつけとくから・・・と言うセンさんはすこーし怒ってる感じ。当然だよね、反省。
ごめんなさい、とせめて一言あやまりたくって、あたしが口を開きかけたとき

「無理しなくたっていいんだよ、ウメコ。ゆっくりお風呂に入ったり、散歩したり、
 フィギュア集めたり・・・ってこれは俺の場合だけど。とにかく好きなこと楽しいことをたくさん
 してさ、時間をかけてゆっくり癒していけばいいんだから。無理に--------」

センさんが、優しすぎるから。おまけに鈍すぎるから。
あたしは思わず言っちゃった。

「ちがうのっ!あたしはセンさんが好きなのっ」

ハトが豆鉄砲くらったような顔って、きっとこういうのを言うんだろうなあ
センさんはいつもは細い目を最大限おおきくして、そのまま固まっちゃった。
きっと理解できなくってフリーズしちゃったんだね
ほんっとにぶいんだからっ
あたしはだんだん腹が立ってきて、目の前でフリーズしてるセンさんにキスしてやったの
ここまでしちゃえば、にぶいセンさんだってわかるはずだもん、あたしの気持ち。
まあ、キスっていうより、顔をぶつけたって感じなんだけど・・・

そのままあたしはマシンブルを降りて、まっすぐウチに帰った。
自分が何をしたのか気付いたのは、だいすきなお風呂に入っているとき。

あ、あたし・・・あたしってば・・・ってば、どーーーーーしよっ!
あしたどんな顔してセンさんに会ったらいいの〜〜〜っっっ!!!
このままお風呂にしずんでたいよぉぉぶくぶくぶく・・・
ぷはっ
えいっもうどうにもなれっ!キスしちゃったものはしかたないっっ

ひらきなおってみたものの、まだ気持ちは晴れない
こんなもしゃもしゃした気分のときは、ジャスミンに話を聞いてもらいたいのに。
今晩ジャスミンは夜勤。
お風呂上がって、あたしは一人さみしくチューハイを開けた。

テレビをつける気にも本を広げる気にもならなくて、ぼけーっとしながらチューハイを飲んでた
何度も何度もあのキスシーンがよみがえってきて、部屋中のたうちまわってた
うう、あたしってヘンなやつ。
そんなとき。

ピンポーン。

誰だろ?時計はもう11時を回ってる。
こんな時間に一人暮らしのカワイコちゃんの部屋をピンポンするなんて・・・ぜったいあやしいっ
足音を立てないようにドアに近づき、ドアスコープからそっと外の様子をうかがった。

センさん。
センさんだ。
なぜか白い菊の花束をもって、居心地悪そうに立ってる

思いがけない訪問に、さらに別れ際のやり取りまで思い出して、あたしはもう大パニックっ!
パジャマのままじゃ出られないから、引き返そうとしてずっこけた。
思わず

「いった〜〜〜〜いっ!」

と、情けない声を出してしまった。
びたんっという大きな音といっしょに、たぶん外にいるセンさんにも聞こえたはず。

「ウ、ウメコ?どうした?大丈夫かい?」

胸にしみ込むような、深い、優しい声。正真正銘センさんだぁ
あたしはパジャマ姿なのも忘れて、ドアを開けた。
センさんは隊員服のまま。きっと日誌をつけて、その足でウチに来てくれたんだ
うれしくてうれしくって、あたしはセンさんに抱きついた
好きだよ。大好き。
センさんは困ったようにもぞもぞ動いてから、あたしの背中で手を組んだ。

「・・・ウメコ。おでこ、真っ赤だよ。派手に転んだねぇ」

クスリ、と笑ったような気配が、あたしの頭の上のほうでした。
センさんのいじわるっとつぶやいて、あたしはもっとつよくセンさんにしがみついた。

また、困ったような沈黙。
あたしの耳に、センさんの鼓動が聞こえてくる。ドクン、ドクン・・・
さっきまでのもしゃもしゃした気持ちはどっかへ行っちゃって、あたしは黙って鼓動の音を聞いていた。
ずぅっとこうしていたい・・・

「その・・・変な話だけど、賭けをしたんだよ」

センさんの声が、センさんの体の中から聞こえてくる。いつもよりも低いくぐもった声で。
あたしはつぶやくように「なんの賭け?」と聞いたけれど、センさんには聞こえてなかったかもしれない

「俺がウメコのウチに着いたとき、電気が消えてたり、お風呂に入ってたりとかで、
 ウメコに会えなかったら・・・これからも、いままでと同じでいようって思った。
 今日会ったことは全部なかったことにして、いままで通り、同じデカとして、地球署の仲間として
 やっていこうって思ってた」

そこでセンさんは言葉を切った。
センさんの鼓動がだんだん速くなるのがわかって、あたしまでドキドキしてきちゃった
顔をあげてセンさんの顔を見る。センさんは言葉を探すように、視線をあちこちに泳がせていた。

「・・・・・・・・・会えたら・・・。・・・・・・・・・・・・・・・・・・会えたら、どうするつもりだったの?」

センさんがあたしを見つめる。あたしは体全部が心臓になっちゃったみたい。ドキドキドキドキ。

「・・・会えたら・・・・・・・・・・・・・・会えたから・・・その、つまりだな・・・いままで通りじゃなくって・・・
 いままでとは違う・・・違って・・・・・・違うから・・・・・・・・・・・・・・違うんだよ・・・つまり、だから・・・
 いままでとは違って・・・その・・・つまり・・・・・・・・だから・・・・・・・・・・・・」

続きを待っても待っても、センさんは「つまり」と「だから」から進んでくれない。
あたしはその先が聞きたいのに〜〜〜〜っ!
とうとうあたしは半分やけになって聞いた。もう、ムードぶち壊しじゃん・・・あたしってば。

「つまり、だから、なに!?言いたいことがあるなら、はっきり言ってよっ」

「だから・・・・・・・・・ 君 を 抱 こ う と 思 っ て 」

真顔で、念を押すように言われたから、あたしは素直に「・・・はい。」と言ってしまった。
だってなんか説教するときの言い方にそっくりだったんだもんっ
で、センさんといえば、あたしがあんまり素直に返事したもんだから、拍子抜けしたように

「あー・・・そう。そっか・・・・・・・・・・うん、そうかぁ」

と、頭をぽりぽりかいた。
後から思えば、売り言葉に買い言葉で、勢い余って言ってしまった台詞を、かるぅ〜くかわされて
こまってたんじゃないかなぁ、きっと。

そして、実は・・・実はあたしはこのとき、

(抱くも抱かないも、あたしいま思いっきり抱きついてるのに・・・なに言ってんの?)

なーんて、おそろしくすっとぼけたことを考えてたの。
だから、その言葉の続き、つまりあたしの告白への返事をじーっと待ってたの
あ〜〜〜〜〜〜〜ばかばかばかばかっ!!

「・・・・・・・・・・・ウメコ、君、意味わかってないでしょ?」

突っ込まれてようやくあたしは気がついた。「抱く」のもう一つの意味に!
こんなんじゃ、センさんを「どんかん」だって言えないじゃん・・・
さっきからあたしのおなかにあたっていた、硬い棒みたいなものの正体にもやっと気付いた
変なところに警棒さしてるんだなぁって・・・そんなわけないじゃん。
うれしいのとはずかしいのとがぐちゃぐちゃになって、あたしはセンさんから少し離れた

「そっ・・・そんなに・・・・・・・・急がなくちゃ、ダメ・・・なの?」

付き合うといえば、キスまでしか思いつかない中学生・・・ううん、小学生並のあたしには
どう返事していいのか、ぜんっぜんわかんなかったから。
もっと時間をかけて、ゆっくりとお互いを理解していって、それから・・・なんて考えてた。
それを見透かしたようにセンさんは言った。

「俺達には、これ以上互いを理解しあう時間なんて・・・必要ないんじゃないかな?」

センさんは左手に持ってた白い菊の花束をあたしに渡すと、ゆっくりと、キスをした
ゆっくり、優しく、包み込むように。

「もちろん、ウメコが嫌だっていうなら、無理強いはしないよ。ただ、俺達には
 きっかけがなかっただけで、もうずぅっと前から、たくさんのものを共有していたと思うんだ」

それは、あたしもおんなじ思い。
いままでずぅっとオフにしていたスイッチを、ポンとオンにしただけのこと。
そのための回路は、もうずっとずっと前からここにあったの

あたしの高さにあわせてしゃがんでくれてるセンさんに、軽く口づける。
これは、スイッチがオンになった合図。
もう一度キスをする。今度は深く、深く・・・センさんの舌が、あたしの口の中に入ってきてかき回す。
脳みそをかき回されたみたいで、もうなんにも考えられない

「・・・・・・・・・・・んっ・・・・・・・・・っ はぁ・・・・・・・・・っ んん・・・んっ・・・」

離れたくなくて、センさんの首に腕を回す。ぎゅーっと抱きつく。
もっと強く、もっと強く、抱きしめて・・・・・・・・・・
(続く)

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