Episode ∞ 『シェアリング・ハート』

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 宇宙警察地球署の刑事、礼紋茉莉花。通称ジャスミン。
 ジャスミンは、エスパーである。相手に触れることで相手の気持ちが読めるのだ。

(捜査以外でそんなことをしたくない。相手の気持ちなんかわかったって、何もいいことなんかないから)
 経験上、そう自負する彼女は、あえてそれを遮断する為に、いつも黒の革手袋を着けていた。

 ここ最近、”不思議”なことが、ある。
 それは、黒革手袋を着用していても、たった一人だけ、気持ちが読める……否、気持ちが勝手に自分に伝わってくる人物がいた。
 その一人とは同じ地球署の刑事、バンこと、赤座伴番。
  
 ヘルズ三兄弟に追い詰められ、ああ、もう駄目だ―と思った瞬間。
 彼はジャスミンの肩に手をかけ、こう叫んだ。

「手はなくても、それでも正義は勝つんだ! 俺はいつもそう信じてる。お前だってそうだろジャスミン!」

 弱気になりかけ、不安で真っ黒になりそうだった彼女の心に光を照らし、全ての不安要素を吹っ飛ばしてくれた、あの言葉。
 そう、”昔”と同じ。”あの人”に救ってもらった時。雨が止み、雲がどこかに吹っ飛んだ後の空。

――虹がかかった空を見たとき以来だ――と彼女は思った。  
 「五人目なんか、いらないね」

 最初の頃、彼には直接言わなかったけど、そう吐き捨てた彼女。まさか彼が自分の魂を揺さぶるところまで大きな存在になるとは。
 でも、これが彼女の『ターニング・ポイント』。

 普段は伝わってこない彼の”心”。事件なり、恋なり、なんらかのきっかけで彼の”心”に一度火が点けば、一緒にいるだけで、彼の”心”が嫌が応にも伝わってくる。

*************

 ある時。ホージーのイリーガルマッチに観戦がてら、潜入捜査に入ったジャスミンたち。イリーガルマッチが始まり、序盤。ホージー優勢。相手にダウンを与えた時。
「やったー!」 
「「ワン、ツー」」 
そして、ハイタッチした、その瞬間。
(相棒!やったな!)
 ジャスミンの心に、バンの”心”が流れてきた初めての、瞬間。

 その日、ジャスミンは手袋を付けていなかった。手袋を付けただけでも、バレる可能性もないとは言えなかったから。
 誰にも触れなければ、大丈夫。そう思って彼女は手袋を外して、潜入捜査に来ていたのだ。
 バンと素手の状態でハイタッチなんぞしたもんだからバンの気持ちが流れてきたのだと、その時はそれで納得し、そのまま試合観戦を続けていた。
 そして、ホージー優勢かと思った試合も、筋肉増強剤メガゲストリンを飲んだ相手が徐々にホージーを追い詰めにかかり、ホージーにダメージを与える一方。
 そんな中バンが叫ぶ。

「ドーピングまでして勝ちてぇかよ、卑怯者!」
 その隣で観戦していたジャスミンの心に流れてきたのは。
 (こんなのに、負けるんじゃねえぞ……相棒)

 何もしていない、ましてや触れてもいないのに、バンの気持ちがわかる自分に初めて気が付いた。流れてこなくても、予測できる範囲内では、あるものの。
 結局イリーガルマッチが終了するまで、ホージーの試合経過を気にしながらも、心の中に流れてくるバンの”相棒”に対する”気持ち”を受け止めるので必死だった。

 そして、またある時。それはマシンドーベルマンの車内で。
「緊急手配、真犯人はパウチ星人ボラペーノ。おそらく次はザムザ星人シェイクになりすます」
 ボスの連絡を受けて、パトライトとサイレンを点けながらバンが叫ぶ。

「じゃ、きっとマイラさんに会いに行くはずだ」
 (マイラさんが、危ない!助けにいかないと!)
 (……また流れてきた。……失恋したくせに、それももう半年近くも経ってるのに……)

「なぜ知ってる?」
 そう突っ込んだものの、見事に無視されて。挙句の果てに、バンから流れてくるのは、
 (マイラさん、マイラさん、マイラさーん!!)
 「マイラ」の言葉だけ。ドリフトターンまでして、マイラのマンションに向かうバンに、ジャスミンは呆れながらも、ちょっとマイラが羨ましく、なった。

*************

――キィーン……耳鳴りがすると、それは”彼女”からの、”エマージェンシー”の、合図。しかし、彼がそれに気付くのはもう少し後の話――

*************
 とある午後の宇宙警察地球署、デカルーム。
 クリスマスも終わり、あと5日ほどで新しい年になるというのに、事件は絶えず起きている。
 というわけで、地球署には休みなど、ない。そんな中……

「ジャスミン、外線にお前宛の電話が入ってるそうだが……」
そうボスに呼ばれて、振り返ったのは、ジャスミン。
「誰からですか?」
「相手はちょっとわからないのだが……どうする?」
「……部屋に繋いでください」
「わかった、じゃ、行ってこい」
そのままジャスミンは、駆け足でデカルームを出て行った。


「……ごめん……私、いろいろ忙しくて……」
『えー?そうなの……じゃあ、しょうがないよね。勤務中に電話して、ごめんね。それじゃあね』
「じゃあ……」
震える手で受話器を置いた直後。そのまま床にへなへなと座り込んだ。
 (なんで今更……)

――もう、昔の私は、捨てたはずなのに。また、思い出す。”あの頃”――

「……ジャスミン、遅っせーなあ……」
はあとバンがため息をつく。
「電話にしては、長いね……俺たちは先に出動させてもらうよ。行こう、ウメコ」
そう言いながら、センとウメコは先にマシンブルでパトロールに出かけてしまった。

 電話を繋いでくれと言って、かれこれもう10分以上過ぎている。
いくら私用だと言っても、一応仕事しているのだから、また後でとか丁重に断れるはず。
 (ジャスミンはそういうところ、しっかりしてると思うんだけどなあ) 
などと思いながら。

「……部屋、見に行ってきていいっすか?ボス」
ボスに一応許可を取る。
「ああ、いいぞ。そのままパトロールに出動してくれ」
「俺も行きます!」
 と水を差したのは、ホージー。
「なんだよ相棒ー、相棒はパトロール行かなくていい日だから関係ないじゃんか」
「相棒って言うな。お前一人じゃ何するかわからんからな」
「なんだよそれ!」 
 またいつもの喧騒。やれやれとボスが声をかける。
「バン……部屋に行かなくていいのか?」
「あ、そうだ!行ってきまーす!」
「おい、ちょっと待て!」
 そのまま颯爽と、デカルームを出て行くバン。もちろんバンの自称”相棒”もその後について行った。

「……だから、別にさぼったり何もしないって!」
「うるさい!お前は信用ならないんだ」
とそのまま喧騒を廊下にまで持ち越し、やっとこさジャスミンの部屋に着いた。

 ドアの向こうからは、声はしない。
(電話もう切ってるんじゃないか……)
とホージーと目線で合図しながら、バンがドアを3回叩く。
「おーい、ジャスミン。もうパトロールの時間だぜ?」
『……』
再び、ノックを3回。
『……』
「おっかしーな」
「部屋にいないんじゃないのか?」
「じゃあ俺たち、すれ違いだったのか?……あ、あれ?」
バンが何気に触っていたドアノブが動く。
「おい!ジャスミン”とはいえ”、”レイディー”の部屋だぞ!」
何気に失礼なことを言うホージーである。
「でも、なんか事件とかだったら……どうするんだよ?……ジャスミン、開けるぞ?」
とドアノブを回し、ドアを開けた。

 部屋に入ってみる。誰もその部屋には、いなかった。部屋の真ん中にはSPライセンスが転がっていた。
「ライセンスがあるんだったら、外には出かけないよな……普通」
「よっぽどのことがなければな」

――!?――

「……隣の部屋に誰かいる」
「また野生の勘ってやつか?」
「なんとなく……」
「……しょうがないな」
 バンの野生の勘を何気に買っているホージーはそのまま部屋に行くぞと合図する。実は、野生の勘ではなくて、耳鳴りがしたのを、バンはそのままホージーには、黙っていた。
 (耳鳴りなんて、久しぶりだな)

 ホージーが部屋のドアをノックする。
「ジャスミン?」
「おーい、ジャスミン!パトロール行かないのかよー!」
 (馬鹿!声がでかいんだよ、お前は……敵だったらどうするんだ……)
と思いながらも、ちゃっかりとホージーが
「開けるぞ」
と言ってそろそろとドアを開けてみる。

 ジャスミンが、ベットに持たれかかっていた。寝ているのか?と思って先に声をかけたのは、ホージー。
「……ジャスミン?」
「……」
むくりと起き上がり、2人を見るジャスミンは、いつもと変わらない。
「……あ……ごめんね。2人とも……もうすぐ行くから……バン、先に駐車場に待っててくれない?」
「……わかった」
「お前、なんか顔色悪くないか?」
ホージーにそう聞かれて、すぐさまピースサインを出す。
「ううん、大丈ブイ」
「そうか、ならいい。じゃあ、このバカが足引っ張らないように祈ってるからな」
「うるさいよ、相棒!」
「だから、相棒って言うな!」
 また喧騒しながら、2人はジャスミンの部屋を出て行く。

 ジャスミンはそんな2人を見送りながら。
 (仕事……しなきゃね)
 ため息を一つついて立ち上がり、隣の部屋に置いてあったSPライセンスを取って、後を追いかけるように部屋を出て行った。

「……なあ相棒……さっき、”なんか”見えなかったか?」
「”なんか”って、何が?それと相棒って言うな」
「……じゃあ、別にいい」
「変な奴だな。じゃ、俺はデカルームに戻るから。ジャスミンのこと頼むぞ。
お前はどうもジャスミンの足を引っ張ってるとしか思えんからな」
それだけ言うと、ホージーはデカルームの方へ歩いて行った。

 駐車場に向かう廊下を歩きながら、ボソッとバンは呟く。
「俺の見間違いかなあ……」
 あの時、バンの目に一瞬映ったのは、

『後ろ髪を2つに分けて、耳を押さえてうずくまる、制服を着た女の子』。

 はっと気が付くとその女の子は消えて、ベットに持たれかかっていたジャスミンがバンの目に映っていた。
「気のせいだよな……きっと」

*************

――気のせいだと思っても、それでもやっぱり、気になるもんだ――

 マシンドーベルマンでのパトロール中。
「あー、わっかんねー!」
 髪をくしゃくしゃかきむしりながら、バンは叫ぶ。

「わっかんねーって、何が?」
抑揚のないいつもの声でジャスミンに指摘されたバンは、
「まあ、いろいろあってさ」
「……まあ、バンが言わないのなら、別にいいけど」
そう言って、ジャスミンはハンドルを再び握り締め、

 暫しの沈黙。いつもならこんな沈黙も気にしないのに。今日の沈黙は、なぜか破りたくてたまらない。バンが先に口を開く。
「えーっと、現在位置は……」
 いつもは触ることすらしない、フロントボディに設置してある端末をピッピッピと触り場所を確認する。
 何かしらで沈黙を破らないと、気がすまないのだ。
「ポイント184か……」

 そう言った瞬間、それまで何もなかったジャスミンの周りの空気が変わるのを感じ、耳鳴りが突如始まった。
 (今日耳鳴り、多いな……)
 ――キィーン――

*************

 (……あれ?)
 バンは気が付くと、学校らしき建物の廊下に立っていた。

 (……ここ、何処だ?……ってさっき俺車の中にいたはずなのに……)
 辺りをきょろきょろしても、バンには見覚えもないところなのだから、わかるわけがない。
「あのー……」
 通りかかる人に声をかけようと試みるも、皆バンを通り過ぎて、誰も気付いてくれない。

 (どうなってんだ……?)
 あせるとどうしても走る癖があるのか、バンは廊下をそのまま通り過ぎ、階段にぶち当たった。
 バンの目に映ったのは、階段に座り込む少女。

 (この子……どっかで見たことある……そうだ!)

 『後ろ髪を2つに分けて、耳を押さえてうずくまる、制服を着た女の子』。

 どうせ気付かないだろうからと思って、顔を覗く。少し幼さが残っているものの、見たことのある、顔。
 (……ジャスミン)
 その少女は、ずっとうずくまったまま、動かない。何かに怯えているように見える。
 (何か、聞こえてくる……)
 否が応にも、頭の中に流れ込んでくる、”負の囁き”。

 (またいるよ)
 (なに考えてるかわかんない)
 (気持ち悪い)
 (またこっち見てる)……

 男の声、女の声……いろんな人の声。
 (これって、ジャスミンのことかよ……)

「ヤメテ!!」
 少女が叫んだところで……再びバンの意識は、マシンドーベルマンの中に、戻った。

*************

「……ちゃん、バン!」
「うぁ……?」
 マシンドーベルマンは、停車中。
「バン……やっと目が覚めた……」
まっさきにバンの目に映ったのは、ため息をつくジャスミン。

「……あれ?ここ何処?」
「パトロール中に……居眠りはいけません!」 
びしっと腕で×印を出すジャスミンがいる。

 (さっきの……何だったんだろう)

「俺、さっき寝てた?」
「私が運転しててよかっただっちゅーの」
「ごめん……」 
「ま、いつものことだし」
「あのさ」 
「何じゃらほい?」
「……やっぱ、やめとく」 
「変なバンちゃん」

(妙にリアルな夢だったな……。俺、やっぱり変なのかな)

『後ろ髪を2つに分けて、耳を押さえてうずくまる、制服を着た女の子』

 あれは、確かに、ジャスミンだった。泣きもせず、ただひたすら、耳を塞ぎ、声を聞かずに耐える、ジャスミン。

(でも……嫌でも聞こえてきたんだろうなあ)
 大体の経緯は彼女から直接聞いている。エスパー能力のコントロールが出来ずに他人の心の声が聞こえてきたりして、苦しかった。とも。

 しかし、夢の中とはいえ、あの夢はリアルすぎる。
(あんな生活を送っていたのか……)

 現在は劣等生ではあるものの、それでも、何もかも上手いこと人生が運んできた自分とはまったく正反対の、生活を送っていたのかと思うと。 

(……俺、ジャスミンのこと、何もわかってなかったんだ……わかろうとも、しなかった……)

 ジャスミンが、SPライセンスを開いて、時刻を確かめる。
「……そろそろ、パトロール終了。デカルームに戻りましょか」
「うん……」
 そのまま、マシンドーベルマンは帰路の途に着いた。
*************
 その日の夜。バンはテツとセンと深夜勤務に当たっていた。
 丑三つ時も過ぎた頃。いつもならバンはあくびを始めてくーくー寝てしまうところ。
 
 しかし、今日は、特別。頭が冴えて、眠れない。気になるのは、昼間の出来事、ジャスミンの様子。そして、夢か幻か。ちらほらと、バンの目に映る少女時代のジャスミン。
 眠ってしまっては深夜勤務の意味がないので、眠れなくて結構なのだが、本人より驚いたのが、他の2人。
「……先輩が起きてるなんて」
「珍しいねえ」
2人で顔を見合わせる。
「……いいじゃんか……俺にだってたまには眠れない時はあるの!」
ばん!と机を叩き、2人をびっくりさせる。

「起きてるのなら……たまっている始末書、書きなよ」
「書く気ねーよ……”それどころ”じゃないし(ボソ」
「ナンセンス!じゃあ、寝た方がマシですよ!……その前に、”それどころ”じゃないって、何ですか?」
「そうだよねえ……バンが眠れないなんて、よっぽどの理由が、あるはずだし」
ニヤニヤするテツとセンに突っ込まれてしまい。
「あ……」
 (センちゃんは物知りだし、テツは後輩だから、話しても笑ったりとか、しないよな……?これがウメコや相棒だったら、馬鹿にされてオシマイって感じするしなあ……)

「……あのさ……」
バンはここぞとばかりに、昼間の出来事を、話し始めた。

*************

「それは、変な話ですね……」
 はい、どうぞとテツがコーヒーを差し出してくれた。サンキュと言って、コーヒーを受け取ったバンは、
「……だろ?なんでジャスミンの若い頃の幻とか夢とか見えるんだろうって……センちゃんもそう思わないか?」
 うーんと唸りながら腕を組んで考えていたセンが、バンの話を聞いてから初めて口を開く。
「……バンに、一種のエスパー能力が目覚めた……のかもしれない」
「え、嘘、ホント?」
「ナンセンス!」
 驚くバン。納得のいかない、テツ。
「ただし……相手はジャスミン限定」
「へ?……って、なんで相手はジャスミンだけ……」
「そんなの決まってるじゃないか。……いつも一緒に、いるだろ?」
「それだけで?」
ぽかーんとした顔でセンに聞く。
「バンは意識していなくても、ジャスミンが、意識してるかも、しれないねえ〜」
「何だよそれ……」
 ”意識”という言葉を出さないと、気付かないバン。それで、やっと気が付いたらしい。そして、後輩からのとどめの一言。
「ナンセンス!先輩はそんなこともわからないんですか……?だから先輩は、”女心がわからない”って言われるんですよ!」
「……」
バンは黙り込んで、うつむいてしまった。数分間、そのままの状態でうつむいていた。

 テツが痺れをきらして。
「先輩……だいじょうぶですか?」 
ちょんちょん、と肩をつつく。
「……大丈夫じゃねーよ……」 
頭を掻きむしり、立ち上がった。
「何処行くの」 
「トイレ!」
そのままバンはデカルームを出て行った。

「……やっぱり、先輩って……」
「……だよねえ……顔、赤くしてたよね」
残された2人は、お互いの顔を見て、ニヤッと笑った。

*************

「……さっきはああ言ったけど、エスパーと呼べるほどのものでは、ないんだよね。」
「ジャスミンさん限定だからですかね?」
「”悩んでる人や、困っている人が無意識に発する思考を感じ取る能力”……”思考派”に当てはまると思うんだけど……もっと困ってる人や悩んでる人はいくらでもいるのに、ジャスミンのことしか受信できてないんじゃ、エスパー能力とは言えないよ。どっちかというと、”縁(えにし)”って感じがするんだ。」
「そういえば……ジャスミンさんに触るのって、ウメコさんか先輩ぐらいですよ……イリーガルマッチの時、先輩、ジャスミンさんと素手でハイタッチしてましたよね」
「テツが来るちょっと前に、正義は勝つ!ってがっちりと肩掴んだり、してたしねえ」
「……ちゃっかりとそんなことまで……」
「それと、後でファラに関する報告書、読んだんだけど。ファラの取調べの最中に、バンがファラにイチモツを蹴られた拍子に、ジャスミンを押し倒したんだって。後でこれはセクハラだってファラがぎゃーぎゃーわめいてたそうだけど……とにかく、あの2人は接触が多いんだよ。それで意識しない方がおかしいんだよ。……バンは特に鈍感だから、さっきでやっと気が付いたって感じかな?」

 (またこの人は、そういういたずらが好きなんだから……)
 テツが怪訝そうにセンの顔を見つめる。そんなことも気にせず、センは話し続けた。
「知らず知らずのうちにジャスミンがバンに対して心を開いて、無意識のうちにバンに対して自分の思念を”ビジョン”に変えて……いろんなサインを送ったりしている……っていうのが、俺の予測なんだけど。どこまで当たってるかは、当の本人にしか、わからないからねえ」
「なるほど……さっすがセンさん!頭が切れますね!」
「君はいつも俺に対して褒め言葉ばかりだねえ……もっと他に言うことはないの?」
「……」
 (だって、余計なこというと、センさん怖いですから……)

*************

 トイレに行くと言って嘘付いて。廊下に逃げただけだった。
 (嘘だろ?……ジャスミンが、俺のこと……だって、いつもしゃべってるのは、ウメコか、センちゃんばっかじゃん。俺となんて、マシンドーベルマンに乗ってるときぐらいしかしゃべらないし……何で、俺なんか……)

 ”彼女”を”仲間”としか見ていなかった自分。でも、”彼女”は自分のことを”仲間”以上だと思ってる……?
 (俺って鈍感なんだな)
 ……やっと気が付いたバンであった。

*************

 次の日の朝。
 眠い。
 昨日深夜勤務だったせいもあるが、何しろ、深夜勤務で恒例の”睡眠”が出来なかったのもあって……
「ふあああーあ」
「バン、またあくびしてるー!」
「るせー!昨日深夜勤務だったんだから眠くて当たり前だろ?」
「いっつも寝てるくせに(ボソ」
「なんだとー!」

「おい、バンとウメコ、静かにしろ!」
さっそくホージーからダメ出しを食らった。
「「はーい……」」
「ホージー、そのくらいにしといてやれ。……ちょっと皆、聞いてくれるか?」
「何です?ボス」

「昨日から、ポイント260周辺で、アリエナイザーを目撃したと多数の通報があってな」
「そのアリエナイザーの手がかりは?」
「それが……まだよくわからんのだ……」
「聞き込み開始、ってことですね」
「まあ、簡単に言えば、そうなるな……というわけで、捜査を開始してくれ」
「「「「「「ロジャー」」」」」」

*************

 バンたちは、ポイント260周辺で聞き込みを開始した。通りすがりの人たちや、周辺住民の人たち……ちょっとした手がかりは掴めたものの、未だアリエナイザーの特徴・姿形までは情報を収集することが出来ず、そのまま時間が過ぎ、日が暮れようとしていた。
 ホージーとテツのバイク組は先に報告するからと言ってデカベースへ戻ってしまい、あとはマシンブル・マシンドーベルマンの2組が集まり始めていた。
 
「だめー、全然手がかりがつかめないよぉ」
「せめてアリエナイザーの特徴までわかればいいんだけど」
センとウメコが走りながらマシンブルとマシンドーベルマンを停めてあった場所に、戻ってきた。
「俺たちも手がかりほとんどナッシング」
自称相棒の口癖を真似ながら、ためいきをつくバン。

「……あれ?ジャスミンは」
「それがまだ戻ってこないんだ……」

 センがSPライセンスを開けて、ジャスミンの場所を確認すると。
「ポイント184にいるみたいだけど……」
「184?っていうか全然!離れてるじゃん!……何やってるんだよジャスミンは……」
「俺たち、もうすこし聞き込み続けてるから、バン、ジャスミン探してきてくれない?」
「ぶー!なんでバンなの?ウメが行く!」
予想通りウメコが噛み付いてきた。
 (ウメコの言うこともわからないでもないけど、一応パトロールのパートナーは、バンとジャスミン。そして、俺とウメコ。ボスからそう決められたんだから、しょうがないんだよ。それに……)

「まーまーウメコ……」
と言いながらセンがウメコに耳打ちする。
 (帰りに三ツ星ケーキ、こっそり食べに行こうよ)

「……じゃあ、しょうがない。バン、絶対ジャスミン連れて帰ってきてよねー」
「へーへー」
 (また食い物につられたな、ウメコ……)
と言いながら手をひらひらして2人の元から去り、ジャスミンを探しにポイント184へ向かった。

「ジャスミン、何処だろ」
SPライセンスに付属の通信機能で、大抵の場所の見当はわかる。あとはその場所に向かうだけ。バンは、走り出した。

*************

 ポイント184。
 実はポイント184はジャスミンが通っていた、中学校の周辺区域に当たる。過去を捨てた。とはいえ、やっぱり見るのは、辛いもの。
「……忘れたいなあ」 
 ぽつりと呟く。
 でも、忘れられない。引き寄せられるかのように、ここに来てしまった、自分。木枯らしが吹く中、彼女は公園のベンチに座り込んだ。
 目を閉じると、あの嫌な思い出が再び頭をよぎり始める……

 (ここかなあ……)
 小さな公園の前。SPライセンスを覗くと、ジャスミンの位置と自分の位置確認がピッタリ合致する。公園の中に入るとすぐに彼女の姿が目に入った。
 (お、見つけた!)
「おーい、ジャスミ……」
 声をかけようとした、その時。

―キィーン―

 (また耳鳴りかよ……)
 彼女の周りから灰色かかった霧が立ちこめ、彼女の姿を、隠した。しばらくして、そこから現れたのは……

『後ろ髪を2つに分けて、耳を押さえてうずくまる、制服を着た女の子』

 (また出てきたか……それより、ジャスミンは何処だ?)
 慌ててジャスミンがいたところに駈け寄ると、さっきまでいた女の子は、消え、ジャスミンがベンチに横たわって、目を閉じている。
「ジャスミン!」 
 ジャスミンの元に駈け寄り、声をかける。返事がない。……でも、胸も動いているし、息も……している。

「ジャスミン……おい、起きろってば、ジャスミン!」
 (まさか死んでなんてないだろうけど……)

 ジャスミンは、その声に気付いて、耳から手を離した。振り返ると、そこには。笑顔を絶やさない、まるで少年のような目をした、彼。

「バン……」
「さ、早くデカルームに帰ろうぜ。……寒くって……コーヒー飲みてぇよ……」

*************

「しっかし、よくここまで来れたよな……聞き込み……したか?」
彼女は首を横に振るだけ。
「そっか……、ま、たまにはそういうときも、あるよな!」

 ポイント184から260までは徒歩で15分かかる。2人は歩きながらポイント260に置いてあるマシンドーベルマンまで戻ることにした。

 街を歩くと、クリスマスのイルミネーションは片付けられ、今度は”ハッピーニューイヤー”、”迎春”などの文字が並ぶ。通り過ぎる人も荷物を抱え、何かしらせせこましい。

「もう……今年も終わりか……」
「本当に今年はいろいろあったわね……」
「俺が来ちゃったから、事件も増えただろ?」
「んなこたーない……とは一概には言えない……」
「……そうだよなあ」
などと雑談を交えながら、ポイント260へ戻る途中…

「……茉莉花?」
「……え?」
「茉莉花だよね!?あたしよ!”ノリコ”」
「ノリちゃん……?」
「そうよー、もーう、すっごく久しぶりじゃない!」

 バンは一歩下がって2人のやりとりを、見つめていた。すると……
 (また来たかな……)

―キィーン―
 耳鳴りと同時に現れた、薄いフィルター。2人のやりとりの真正面から”ビジョン”が流れる。

*************

 同級生たちの心無い声に、ジャスミンがとうとう耐え切れず。
「ヤメテ!」
 ずっとうずくまっていた、ジャスミンが始めて叫んだ。

 (さっきの、続きか……)
 昨日のセンの話、そして、バンらしいというか、もう耐性がついたようで、自分でも冷静になんでこんなビジョンを見てるのだろうと、思いながら……。
 しばらくして、別の少女がやってきた。
「大丈夫?茉莉花」
 とジャスミンに声を掛ける。

 今しがたやってきたその少女はどうやらジャスミンを気遣っているようだ。
「ねえ、本当に大丈夫?」
 その少女がそう言った瞬間。バンの頭の中に信じられない言葉が流れてきた。

 (なーんか、一緒にいると疲れるんだよね)

 冷たく、突き放したような声が聞こえると、またバンの意識は現実に、引き戻された。

*************

 はっと気が付くとまだ同窓会がどうのこうのと揉めている。
 (まだやってんのかよ……それにしても、ノリちゃんって、さっきの……)

 バンもさっきの”ビジョン”を見て、顔も声もはっきり覚えている、”ジャスミンの親友”だった彼女。”ビジョン”から何年か経っているので多少大人っぽくなり、化粧はしているものの、昔の面影は残っている。

「だから、忙しいって断ったはず……」
ジャスミンは、本当に困っているようだった。
「ねえ、茉莉花……本当に同窓会、出ないの?無理なら日程ずらすからさ……」
 見た目より強引な子らしい。ジャスミンの表情が途端に暗くなる。

 (昨日の電話はこのことだったのか……)

「私に合わせると、いつまでたっても日程なんか組めないわよ……」
「……でも、あれから全然学校に来なくて、いきなり宇宙警察学校に入っちゃって……心配してたのよ……あたし……」
 心配そうな顔でジャスミンを見つめる”ノリちゃん”。
 そのやりとりを横目で見ていたバンに突如として、聞こえてきたのは、”ノリちゃん”の表情からは想像もつかない、言葉。

(あーあ、メンドクサイ。社交辞令も疲れるもんね)
 愕然。
 きっと、直接伝わっていなくても、ジャスミンにはわかっているだろうに。

 (――なんだコイツ!やっぱり昔と変わってないじゃねーか!)
 そう思って、”ノリちゃん”に怒鳴りつけてやろうとした、その瞬間。
―キィーン―
 また耳鳴りが始まる。
 (バ、バカ!なんでこんなときに限って……)
 再びバンの目に映る”ビジョン”。今度はいつの間にか、自分もその場所に入り込んでいた。

*************

 親友の女の子の本音の声が流れてきた瞬間。ジャスミンは、顔を上げて。
「ノリちゃんだけは、親友だと思っていたのにっ……!」
 泣きそうな顔でそう叫ぶとそのまま階段を、駆け下りた。

「あ、おいっ、待てって!!」
ジャスミンにはバンの姿など、見えていないのだから、気付くわけがない。それでも、バンは、逃げるジャスミンを、追いかける。だって、声が聞こえるから。
――ツライ――
「ジャスミン!」 
それでも、逃げる。バンは追いかける。まだ、声が聞こえるから。
――クルシイ――

「待てよ!」 

やっぱり、逃げる。それでもバンは追いかける。声にもならぬ叫びは、まだ続く。
――タスケテ―― 
「待ちやがれーーーーーー!」
追いついた!そして、彼女に触れようとした、その瞬間。

 目の前が、真っ暗になり、バンの意識が薄れていく。遠のいていく、意識の中で彼が見たものは、ジャスミンの、涙。

*************

 ”ビジョン”が消え、バンが現実に戻ってきた瞬間。気が付くと、バンの手は、ジャスミンの手を掴み、そして。”ノリちゃん”に向かって、口から自然と出た言葉。

 「すいません……俺たちこれから仕事ですから」

 バンはそう言って、ぐいぐいと、ジャスミンを引っ張って、”ノリちゃん”からジャスミンを引き離す。だんだん”ノリちゃん”が遠くなる。けれど、”ノリちゃん”は追いかけてもこなかった。

「バン……」
 声をかけても、バンは何も言わず、ずっと手を引っ張り続ける。早歩きだったはずが、いつのまにか走り出していた。

 ”ノリちゃん”みたいに強引だけど、彼の手から伝わってきたのは。彼の手の暖かさ。そして、手袋をしていても聞こえてくる、声。
 (俺……ジャスミンのこと、何にもわかってなかった……ごめんな)
 (バン……)
 バンはずっとジャスミンの手を取って、街を駆け抜ける。”灰色のビジョン”はいつの間にか消えていた。

「バン……」
 2度目の呼びかけ。
ぴたっと、バンが立ち止まる。背を向けたまま、彼がボソッと呟くようにこう言った。

「昔のこと、思い出したら、俺が助けてやるから」
 そして、また再びジャスミンの手を取って走り出した。

 結局、ポイント260に置いてあったマシンドーベルマンに辿り着くまで、2人はずっと手を繋いで、走った。
 (ありがとう、バン)

 走っている途中で、ぎゅっと手を握った。その直後。
 「お礼なんて、いらねーよ」 
 照れたように、彼は呟いた。

――自分の気持ちがそこはかとなく彼に伝わっていることになんとなく気付いた、彼女。
 自分の気持ちがそこはかとなく彼女に伝わっていることに、まだ気付かない、彼。
 2人の気持ちが合わさる時間はそう遠くは、ないはず――

*************

 そんな2人を遠目から見ている、蝙蝠と1人のアリエナイザー。

 『……いつになったら、”アイツ”を襲ってもいいんだ?』
 「まあ、そう言うな。タイミングというものが、あるんだ」
 『俺は”アイツ”に復讐したいんだ……兄貴の仇……』
 「またその台詞か。お前には無料で希望の商品を、提供してやるって言ってるんだ。私がいいと言うまで、待て」
 『……』
 (……こいつらが、共倒れになれば、デカレンジャーも終わり……今のうちに、仲良しごっこしておくんだな。カワイコちゃん)

*************―

 ポイント260周辺での、アリエナイザー目撃情報から2日。バンたちは聞き込みを続けていたものの、犯人の特徴は未だに得られていなかった。
「今日もまた、聞き込みですか……?」
「ああ、地道な捜査も必要だからな、出動してくれ」
「「「「「「ロジャー」」」」」」

 各人それぞれ出動しようとした時。
「おい、バン」 
「何すか?ボス」
「ちょっと……」
と、指でこっち来いと指示され、デカルームを出て、廊下で地球署のボス、ドギー・クルーガーと2人きりになった。
「なんか俺が配属されてきた直後みたいっすね」
「そういえばそうだな……それはいいとして、お前に頼みがある」
「は?」
「実は、さっきのアリエナイザーの目撃情報のことだが。アリエナイザーの正体、もう見当がついてる」
「じゃあ、さっきなんでそれを……」
「ジャスミンが、どうして宇宙警察に来たか、知っているだろう?」
「知ってるに決まってるじゃないっすか。アリエナイザーに殺されそうになったところをボスに助けられたって……」
「今回のアリエナイザーは、ジャスミンを襲った犯人の双子の兄なんだ」
「……それじゃ、ベン・Gみたいに、またボスが狙われてるんじゃないですか?……それに、俺にどうしろと?」
「ジャスミンを、守ってやってくれ……もしかすると、ジャスミンを狙ってくるかも、しれない。万が一ということもあるし。俺の鼻が、匂うんでな……」
「ボスは、どうするんですか?」
「自分の身は、自分で守るさ……」
「わっかんね……なんでジャスミンのことを俺に、頼むんですか?」
「俺の勘だ」
 (そう言われちゃ、断りきれないっての)
ボスを見て苦笑しながら。
「ロジャー」
そう返事をして、バンは、デカルームに戻っていった。
 
 それを見届けて、ふうと息をつくボスに、後ろから
「あの子にそんな大役押し付けちゃって、いいの?ドゥギー……」
スワンが声をかけてきた。
「表面的にはお茶目を装っているが、まだまだジャスミンは、過去から吹っ切れていない。完全に、吹っ切る為には、あいつが必要なんだ……」
「あなたがその役を引き受ければいいじゃない?」
「生憎俺はもう一線から、退いているからな……」
「バンもえらい人に目を付けられちゃったわね」
「俺のことか」

*************

「ボスと何の話、してたの?」
「……始末書、たまってるから早く書けってさ」
 (本当のことなんて、言えないに決まってんじゃんか)
「嘘つきは、泥棒の始まりって、習わなかった?」
「え!……嘘なんかついてないぜ」
ボソボソと呟く彼に、ジャスミンは真っ先に突っ込む。
「墓穴掘ってる」
「……」
「私のこと、守ってやってくれとか、言われたんでしょ」
「……なんでわかるんだよ」
もうお手上げだ。

「バンの考えてることが、わかるようになった」
「え?」
「……と日記には書いておこう〜」
「なーんだ、嘘か……びっくりしたあ〜」

 ジャスミンの変な言葉は本音のカモフラージュ。それに気付かないバンは、
 (ああ、よかった)
本気でほっとしていた。

 ついこないだまでジャスミンの周りに漂っていた灰色のビジョンはもう微塵も残っていない。
 (バンがいれば、大丈夫かも……もしかしたら彼に惹かれているのかな)
 そう思いながら、2人はマシンドーベルマンに乗り込み、聞き込みの捜査に向かった。

*************

 「待ったかいがあったな……準備はできているぞ……」
 『やっと、あの女の顔を近くで拝めるんだな……』
 「思いっきり、やりたい放題暴れて来い……!これでデカレンジャーも、終わりだ」

*************

 捜査に向かう途中、緊急警報が鳴る。
『ポイント260にアリエナイザーが出現した!すぐに現場に向かってくれ!』
「「ロジャー!」」
 SPライセンスを開くと、一番自分たちがポイント260に近い。

「やっとお出ましか」 
「一気に、行くべし」
はっと、バンは気付いた。

 (そうだ。俺、この感じ……この”やりとり”が、好きなんだ)

――ヘルズ三兄弟にボロボロにやられたくせに「正義は勝つ」って言った俺に向かって、一番最初に、「バンに賛成、いくべし!」と言ってくれた時。
 ビスケスから階級章を取りに来いと言われ、ボスに止められても「地球署の意地です、必ず勝ちます」と言った俺に、いつもの彼女らしく「以下同文」って言ってくれた時。どっちもジャスミンだったよな――


 それから間もなく。バンとジャスミンもポイント260に到着した。そこにはマシンハスキーもマシンブルも、マシンボクサーもいなかった。
 人すら見当たらない。
 とりあえず、いつアリエナイザーが現れるかわからない、2人はSPライセンスを取り出して。
「「エマージェンシー、デカレンジャー!SWATモード、ON!」」


「本当に、ここにアリエナイザーが、いたのか?」
「わからない……」
 (でも…何か、おかしい)
 2人はそれぞれ、通信マイクを使って、
「ウメコ?聞こえる?応答して……」 
「相棒?テツ?何処にいるんだ?」
 返事が無い。
「ウメコ?」 
「相棒!」
 しばらくして、ジャスミンの通信機能にウメコからの映像情報が、バンの通信機能にホージーから映像情報が転送されてきた。

 ウメコからの映像情報は、イーガロイド4体……いや、6体ぐらい。ホージーからの映像情報には、イーガロイド4体……バーツロイドが10体くらい。テツもちらりと映っていた。

「……足止めを食らってるってことか?」
「敵は、あたしたちのどっちかが目的?」
その時。2人に向かって、遠くから叫ぶ男の声。

『お前が……礼紋茉莉花だな!』
「どちら様……?」
『俺の顔を見たら、すぐに思い出すと思ったんだが……』

「!……あなた……もしかして」
バンのおかげで綺麗さっぱり消えていた過去が再びジャスミンの脳裏に、フィードバックされる。それと同時に。
―キィーン……
バンの耳鳴りが始まった。途切れ途切れにビジョンが、バンの瞳に、映る。

*************

 <雨の中、逃げるジャスミン>

『そう、何年か前に、お前を殺そうとした男の”双子の弟”……』
ジャスミンはSPライセンスを開き、クライムファイルを検索する。

 <若い女性を燃やし尽くすロチイに瓜二つの男>
 <それを発見してしまう、ジャスミン>

「トモカオ星人ロチイ……20の星で猥褻殺人の罪で逃走中……それに100の星で若い女性を次々に殺人し、○年前にデリートされたトモカオ星人オロジの双子の兄……直々にお出ましだなんて、どういうつもり……?」
 ”猥褻”という卑猥な言葉を目にしただけで、ぞくりと背筋が凍りつく。

 <男に見つかって、首を絞められそうになっている、ジャスミン>

 その結果がわからないまま、”ビジョン”はそれ以上、バンの瞳に映ることはなかった。

*************

 ジャスミンが冷静に話をしようと努めているのはバンにもわかる。でも……声がうわずっている。
 (……ビジョンが途切れ途切れなのは……動揺する、ジャスミンの心と”リンク”しているからか?)
焦りながらも、バンはいつもの調子で、相手に突っかかる。
「一体……何が目的なんだ!」

『礼紋茉莉花に、”復讐”しにきたのさ……、いや……礼紋茉莉花というか”ドギー・クルーガー”にな!』
そう言うと、ロチイは一瞬消えたかと思うと、いきなり2人の前に瞬間移動してきた。
「ぐあっ!」 
「きゃあっ!」
 不意を突かれ、2人続けて力強く胸を蹴られ、吹っ飛ばされた。ロチイは、再び瞬間移動して、最初にいた場所に、戻る。余裕綽綽のようだ。

「うっ……」
「畜生、ジャスミン!大丈夫か?」 
「……」
 バンはよろめきながらも、立ち上がり、ジャスミンに声をかけるものの、動かない。あの一発でかなりのダメージを受けたらしい。……SWATモードじゃなかったら、一発でデカメタルが解除されるくらいの……力。

「どうした?もう終わりか……」 
ロチイが不敵な笑みを浮かべてこっちに近づいてきた。

『ジャスミンを、守ってやってくれ』 

ボスから頼まれた、一言を思い出す。
(俺は……ジャスミンを、守る……!)
「これで、終わりなわけが……あるかぁ!……うぉぉぉっ!」
「バン!」
D−リボルバーを発射しながら、ロチイに近づくバン……しかし。再び、ロチイの姿が消えた。

「なに?」 
姿が消えたのに反応して、立ち止まる。
「甘いな」 
再びキックを後ろから浴びた。
「うわあああああ!」
 背中から、強烈な痛みが走り、そのまま ――デカメタル(変身)、解除――  その場にバンはうつ伏せになって倒れた。

「……貴様、それでもデカレンジャーか?……相手にもならんな」
ロチイはぎりぎりと、バンの背中を踏みにじる。
「ぐあああっ……」
 変身していない状態で、アリエナイザーの直接攻撃を受ける。肋骨が、折れたような音を初めて聞いた。
 (ジャスミン……) 
 意識が朦朧となりながらも、それでも気になるのは、ジャスミンのこと。

「やめなさい!」
力強い、声と共に、D−リボルバーの発射音が鳴った。それまでバンの背中を踏みにじっていた、ロチイが一瞬たじろいだ。
「なんだ……お前……まだ元気だったのか……」
「バンから……離れなさい!」
「……言うとおりに、してやるよ」 
ニヤッと笑い。また消えた。

「消えた!?」 
「ここだよ」
声がする方向……、上を見上げると。ロチイが急降下してきて、ジャスミンの肩を蹴り飛ばす。
「きゃああっ……」 
 (しまった!)
弾みでD−リボルバーを離してしまった。

 そのまま倒れながらも、起き上がろうとしたジャスミンの目前に、映るのは。さっきまで自分が持っていた、D−リボルバーの銃口。
「……形勢逆転にも、ならねえな」
 ロチイはふん、とリボルバーを振り上げ、容赦なくジャスミンの胸にぶつける。もう声も出なかった。――デカメタル(変身)、解除―― 

 そのままジャスミンも、倒れてしまった。
「お楽しみは、これからだ」 
 (何、言ってるの……こいつ……)
 バンも薄れた意識の中で、一部始終を見ていた。2人とも変身解除してしまい、手も足も……出ない。残されたのは……腰元にある、SPシューターが最後の武器。
(まだ、動ける……こいつでなんとか!)
体が痛い。でもそんなこと言ってられない。手探りで、SPシューターを探しだす。
 (見つけた!) 
シューターを握った瞬間。

「抵抗しても無駄だ!デカレッド!」 
「誰だ!」
蝙蝠の大群。大群が一つにまとまり、そこから現れたのは……
「……エージェント・アブレラ!」
ジャスミンが叫んだ。
「ごきげんよう、カワイコちゃん……。でも、残念ながら、今日の君のお相手は、私じゃない」
「何ですって?」
「そこにいる、ロチイに、ゆっくり可愛がってもらえ!」
そう叫んで、ロチイに顎で合図をする。
「……」
ロチイの眼光が、ぎらつく。さっきまでの表情とは、まったく違うものになっていく。

 (まさか……こいつ……)
さっきクライムファイルで目にした”猥褻”の文字。それが現実のものに、なる。段々、近づいてくるロチイ。ジャスミンの体は、動かない。
「いや……」
人間体だったロチイの上半身はいつの間にか、蟷螂のような、形態に変化していた。
 (これが、トモカオ星人の……正体)

 バンにもロチイがジャスミンに何をするのか、察知できた。
 (何とかしないと!) 
ぐっ、とSPシューターを握り締めた瞬間。
「邪魔するなと言った筈だ!」
「うあっ……」 
びりびりっと、その手に衝撃を受け、SPシューターが飛ばされた。

「今から、楽しい楽しーい”寸劇”をお前にも見せてやろうって言うのに、自分から放棄するなんて……もったいない」
「そんなもん見たくねえ……!どけ!この蝙蝠野郎!」
「相変わらず、口だけは達者だ……ふん!」
背中を足で踏まれ、再び、激痛が走る。
「うわあああ……」
また肋骨が折れるような音が聞こえた。
「ゆっくり、私たちはここから、観客として楽しもうじゃないか。なあ……デカレッド」

 (体……動かねえ。俺、ジャスミンを守るつもりだったのに……それにしてもなんで……相棒たちは来ないんだ……)
 
 本性を現したロチイの息が荒くなる。苦しいとか、疲れているとか、そういうのではない。目の前にある、獲物をどうしようかと、期待と喜びに溢れ、興奮するかのような、喘ぎ。
「ぐへへへ……目一杯可愛いがってやるよ」
もちろん、獲物は、ジャスミン。
 (助けて) 
体も、心も。恐怖におののいてしまって、動けない。
 バンをふと一瞬見やるも、あのバンですら攻撃にやられ、その上アブレラによってがんじがらめにされている。それでも……
「バン……助けて!!」 
叫ばずにはいられなかった。……しかし。
「もう遅いんだよ」
ロチイが、ジャスミンの前に、立ちはだかり、無理矢理ジャスミンの服を、切り裂く。
「”寸劇”の始まり始まり……」 アブレラが、楽しそうに、呟く。

「……いやああああああああっ!」
「ジャスミン!!」

*************

 鉄工所の主が帰ってくるのを待っていたドギー。
「はい、ドゥギー」
 いつの間にか帰ってきた、鉄工所の主、白鳥スワンからコーヒーを差し出され、ドギーはもらっておくと言ってカップを受け取った。
「ジャスミンのところに行ってきたわ……」
「それで、様子は?」
スワンは首を振るだけだった。そうかと、ドギーはうなだれる。
「俺の判断ミスだ……。まさかエージェント・アブレラが絡んでいたとは……」
「結局、アブレラは?」 
「取り逃がした」 
「そう……」
溜息をつきながら、スワンが呟いた。
「ジャスミンだけじゃない。きっと、バンも、辛いはずよ……」
「ああ……」 
2人は、それ以上何も言わなかった。


 ホージーやセンから、ポイント260に辿り着けないとの通信を受け、
 (何かおかしい) 
そう思ったドギーは単身で260に乗り込んだ。
 ジャスミンの悲鳴で2人が何処にいるのか、すぐにわかり現場に駆けつけ、其処で目にしたのは。

 アブレラに足蹴にされているバン。そして、ロチイに”凌辱”されている……ジャスミンの姿。もちろん、服は全部切り捨てられて。
「なあ……お前……いい体、してんな……たまんねえよ……」 
ロチイの喘ぐ声。
「やめ……て……」
 いくら宇宙広しといえど、地球人外の者と地球人が繋がっている図はなんとも言い難い。異様。
 ジャスミンの、消えそうな、か細い声。ロチイは何も言わず腰を振り続け、ジャスミンは、抵抗も出来ず、されるがまま……

「やめろ!」 
ドギーが来たことに、気が付いたアブレラが、ふふんと鼻先で笑いながら。
「なんだ……ドギー・クルーガー……お前も”見物”に、来たのか?」

「……エマージェンシー……デカマスタァァ……」
 そのままドギーは変身し、先にデリート許可が降りていて、愛戯にいそしんでドギーの存在に気付かなかったロチイを真っ先にデリートした。その時点で、もうジャスミンの意識はなかった。

「ふん、こいつらはもう死んだも同然だ……地球署の終わりも近い……」
アブレラは、そのまま吐き捨てるように、消えていった。

 ”あの時”と同じように、ドギーはジャスミンの命を救いはしたものの。”あの時”とは違って、虹の空は出てこない。そればかりか、ジャスミンが受けた、ダメージは、底なし沼のように、深い。
 結局、敵をデリートしても、救われた者は誰一人として、いなかった。
 (すまない……)
 ドギーは心の中で呟きながら、意識がなく、裸で横たわるジャスミンに、毛布代わりに自分の上着をかけてやる。

「「「「ボス!」」」」 
 それからホージーたちが駆けつけたのは数分後のことであった。

*************

 次の日、デカルームでは、報告書をまとめる為、バンとジャスミンを除く4人が机に向かって、この事件を振り返っていた。
「トモカオ星人、ロチイ……まだ現役だった頃のボスにデリートされた、オロジの双子の兄、か」
「オロジのパンクライムファイルを読んでいると、若い女性を次々に、”焼失”させていたって
載ってますけど。今回の兄の行動は……弟のそれとはまったく違うじゃないですか……」
 テツだって、まだ若い。直接的な表現は避け、皆に尋ねた。

 無言でホージーが壁面の端末に向かって、確認する。
「トモカオ星人の若年層は火を操ることができるらしい。……もっとも、暴走をすればオロジやロチイのようになる。若い頃は相手を焼失化させることによって、快楽を見出し、年をとる毎に段々それにも飽きてきて、己の欲望……。ロチイの場合だと、”性欲”に正直になり、性欲を満たした後で女性を殺害することに”快楽”を覚えていたのかもしれない。……もっとも、もう当の本人のロチイがいないのだから調べようもないがな……」
「それで、自分の兄をデリートした、ボスに恨みがあって」
「ボスが助けたジャスミンが、同じ地球署にいると知って」
「ジャスミンにあんなこと……したんだ……ひどい……ひどいよ」 
ぐすぐすっと、ウメコが再び泣き出す。

「今日はジャスミンさんの様子、どうでしたか?」 
 テツにそう聞かれたウメコは首を横に振って、
「駄目。全然目を覚ましてくれなかった。”起きて”って、何度も呼びかけたけど……」
「そうですか……」
 あれからずっと、ジャスミンは眠り続けている。体は多少の打撲傷があるものの、眠りから、覚めない。脳波等を検査しても異常は見つからなかった。まるで自ら心を閉ざすかのように……

 生と死。紙一重のところでいつも彼らは仕事をしている。しかし、今回だけは事情が違う。ある意味、死よりも苦痛。そして、いつその苦痛が消えるのか、誰にもわからない。
 刑事の前に、ジャスミンだって、一人の女性なのだという事を改めて痛感させられる。

「……ロチイよりも、アブレラが絡んでいたことの方が重要だ」
「ロチイの逆恨みを利用して、地球署潰しにかかったってことですよね」
「俺たちをポイント260に行かせないように、わざとイーガロイドたちを俺たちによこしたりなんかしちゃってるし……」
「あいつ……本当に、一体何者なんだ……」

 わからないものは、わからない。結局、そこで話が止まり、皆、無言になる。そんな沈黙を破るかのように、テツが、口を開いた。

「……俺、先輩の様子、見に行ってきて、いいですか?」
「まだ、面会謝絶のはずだ。……意識もまだ取り戻していない」
「でも、心配なんです」
「テツ。気持ちはわかるけど。もうちょっと待ったほうがいいよ」
「……わかりました」 
納得いかない顔をしながらも、センの言うことを聞くことにした。
 (先輩……目が覚めたら、いつものようにバックドロップとか、してくれますよね……)

*************

「ジャスミン!」
 そう叫んだ後、急に意識がなくなり、いつの間にか、バンの意識は、ふわふわと、どこかを彷徨い続けていた。
 (俺、死んだのか?……別に、もう、死んでもいいかな)
 彼女を守れなかった、自分の無能さに気が付いて。もう彼女に会わせる顔が、ない。

 (なんか……聴こえる)
気が付くと。いつもの耳鳴り。彼女の声が、途切れ途切れに流れてきた。

 <……ら、死ぬんだ……それでもいいかな……みんな私の事、……るし、……なんて……いらないし……死んでも……いいや……>

 (俺たち、一緒のこと、考えてるな……)
「ジャスミン……」
 目の前にいない、彼女の名を呟くと、意識がふっと遠のいた。

*************

「あ……」 
見たことのある、場所。
「大丈夫ですか?やっと気が付かれましたね……おい、署長に連絡しろ!」
「俺……」 
「メディカルルームで寝るのは、初めてでしたよね、赤座さん」
 メディカルスタッフに声をかけられそっと布団から手を出して、じっと見つめる。手には包帯が、ぐるぐると巻かれていて、ちくりちくりと痛みは残っている。アブレラから受けた傷の痛みで生を、実感するなんて。
 (皮肉なもんだな……) 
 ためしに、聞いてみた。
「今日って……何月何日?」 
「もう……年明けちゃいましたよ……1月2日です」
「ごめんな……新年早々から」 
「いいえ。毎年こんなもんですから」
笑いながらスタッフは答えた。
 (嘘付くなよ……俺が来る前なんて、ほとんど事件がなかったくせに……)


 ボスとの面会が終わり、しばらくしてからセンとテツがバンの病室にやってきた。
「先輩がずっとあのままだったらどうしようかと……思ってたんですよ……」
「気が付いて、よかった」
「センちゃん、テツ……」
 笑いながら声をかける。でもその笑みは2人が見ていて痛々しいと思った。
 顔面には大きな絆創膏。左腕は三角巾で固定され。上半身や腕は包帯でぐるぐる巻き。手は無数の傷が残っていてとてもじゃないが絆創膏じゃカバーしきれない為、そのまま消毒液を塗られた跡が残っている。
 もちろん、体が動かないので、寝たまま。
 一通り、自分たちも結局アブレラの罠にはまって、ポイント260に辿り着けなかったこととか、ロチイはボスにデリートされたんだとか、バンに伝えた後……。

「……ジャスミンは?」
「それが、まだ意識が戻ってないんだ」
「そっか……」 
それを聞くと、笑みが消え、そのまま黙り込んでしまった。そのまま黙り込むこと数分間。

 バンが口を開いた。
「俺、ジャスミンを守れなかったのに。それなのに……さっき、ボスから無茶なこと、言われた……」
「何を言われたんだい」 センが尋ねる。
「”俺には、あいつを救えなかった。頼むからあいつを救ってやってくれ”ってさ」 
自嘲気味に答える。
「あいつ助ける資格なんか……もう俺にはないって何度か言ったのに……」
痛々しい右腕で、顔を隠す。そこから、流れてきたのは……・一筋の涙。そして。
「なんでだよ……」
ぽつりと呟いた。

「バン、もう、眠ったほうがいい……」 
2人にはそれ以上、声を掛ける言葉が見つからなかった。

「先輩が泣くの、初めて見ました……」 
「そうだね……」
 メディカルルームからの帰り道。テツが口を開いた。
「それにしても……まさかセンさんが来るとは思わなかったです」
「俺だって、バンのこと心配だったからね」
「……というより、誰も来ないだろうと思ってました」

「ウメコはしょうがないよ。彼女だけは常にジャスミンの側にいてあげないとね……同じ女性だから。ホージーは……まあ、”相棒”だから」
「”相棒”だから、何ですか?」
「……バンのこと、彼なりに信じてるんだよ。一人で立ち直るだろうって。俺は、バンのこと信じてないわけじゃないけど、やっぱり心配だった。だからテツについてきたんだよ。……でもあの調子を見てると、ちょっと……」
 センはそう言って振り返って病室の方を見つめる。
「センさん……」

 信じて見送る者。心配して会いに行く者。立場は違えど……人を思う気持ちは同じ。

*************

 ロチイによって、服を切り裂かれ、露になった、彼女の体。彼女の悲痛な叫びも、俺の止めろという叫びも何度となく空を抜けた。

 彼女は舐めるように見つめられ、そして体中を本当に舐められ、また彼女は叫んだ。一方的に、”犯され”続ける彼女。
 俺はそれを、見ているだけしか、出来なかった。せめてもの懺悔だと思って、見ないようにしようと思った。
 でも、目を逸らそうとしても、その都度蝙蝠野郎に邪魔をされ、俺の顔を動かして、あれを見ろ、目をしっかり開けてなと耳元で囁く。
 
 それでも、何が何でも彼女の姿を見ずにこのままわざと眠ってやろうかと思った。そんな俺を見透かしたように”蝙蝠野郎”がその度に俺の手や腕、顔に傷をつけ、痛みという”刺激”を与え、眠らないようにしてきやがった。
 だから、嫌でも彼女の姿を見続けなきゃいけない。たまにちらりと俺を見つめる彼女の哀しい視線。お願いだから、こんな俺なんて見ないでくれ……。

「やめろ……」 それでも、彼女は俺を見続ける。
「やめてくれ……」 まだ見続けている。なんともいえない表情で……
「見るなぁぁ!!」

*************

 ハッと気付くと、目に入ってきたのは白い天井。
 (また夢か……) 
溜息をつく。もう何度目だろう。
 意識が戻ってから、バンがいつも見る夢はいつも同じ。”あの時”の夢。最後はいつも、ジャスミンにじっと見つめられ、「見るな!」そう叫ぶと、いつもそこで目が覚めるのだ。
 けれど、目が覚めても、彼の心は晴れることはない。

 (俺は……ジャスミンを、”裏切った”んだ……)

 夢の中では”あの時”の再現。そして現実に還ると、自責の念にかられる。そして、また眠る。それの繰り返し。
 (”止まない雨”って、こんなことをいうんだろうな)

 ”この世に止まない、雨はない"

  彼女の口癖を、ふと思い出した。

*************

「あれー、ウメコは?」
「ジャスミンの部屋に、さっき行ったばかりだ」
「毎日、大変だね……ウメコも」
「ウメコさんだって、ジャスミンさんのことが、心配なんですよね・・・」
「でも……ウメコが呼びかけても、目が覚めないなんて……」
 (ウメコには悪いけど……やっぱり、バンじゃないと、駄目かもしれない……)
センは、なんとなくそう思った。

 ジャスミンの病室。ウメコが元気一杯、ジャスミンに語りかける。
「見て?ジャスミン、今日、バラ持ってきたんだよ!赤いバラ」 
「……」
反応はない。でも、それでもウメコは諦めずに。
「……D−花瓶も一緒に持ってきたから、今から飾ってくるね!」 
そう言って、一旦病室を出る。

 ドアを閉めて、ずっと病室で堪えていたものが、ぽろぽろと流れる。
 (なんで?……なんでジャスミン、目が覚めないんだろう……)
 毎日こんな調子。いつものように語り掛けて。ジャスミンの目が覚めるのを待っているけれど、一向に目が覚める気配はない。
 (でも……諦めちゃ、駄目だよね……がんばらなきゃ……)
 目をこすって、赤いバラの束と、D−花瓶を持って給湯室へ、向かった。

*************

 (ウメコ……?)
 
 ここは、「ジャスミンの意識」の中。
 現実世界でも眠っているジャスミンはこの意識の中でも、ずっと眠っていた……というより、あの頃の”茉莉花”のように。ぎゅっと目を閉じて、両手で耳を塞いで、外部からの接触を自ら遮断して。
 それでも聴こえる・感じる現実世界からのアプローチ。

 (ウメコ……?)
試しに、そっと手を耳からゆっくり離してみた……

――突如として聴こえてくるのは、あの男の声。

『お前……いい体してるな……』
『襲われてるってのに……濡らしてるなんて……淫乱だな……』
 そして、閉じているはずの目に映るのは、”あの時”と一緒。あの男が……近づいてくる!――

「いやあぁぁぁぁ!!」 
そして、また再び耳を塞いだ。……さっきまで映っていた、あの男も、消えた。

 (あの男を消して……あの時の記憶を消して……誰か、助けて。誰か……ここから出して) 
 (……違う、「誰か」じゃない。”バン”……貴方じゃないと、駄目……)

*************

 意識が戻ってから、3日が経った。
 あれからセンやテツは一日に一回はバンの様子を見に来るものの、それに受け答えする余裕がなく、ずっと黙り込んでばかりいた。
 一人で病室に居る間、体も動かず、何もすることがなく……何もしたくもない状態で、ただひたすら天井や窓を見つめながらずっと自責の念に駆られていたバンにふっと聴こえたのは。

 ――キィーン――

 ずっと聴こえていなかった”耳鳴り”。ビジョンも、声も聴こえない。ただひたすら、”耳鳴り”が続く。

 (まさか……ジャスミンか……?) 
それに応えるかのように。
「うっ……」 
”耳鳴り”が激しくなる。
「やめてくれ……お前を助ける資格なんて、俺にはないんだ……」
そう呟くと、ずっと続いていた”耳鳴り”が消えた。

 (そう、俺には……無理なんだよ……)



「先輩、聞きましたよ……食事殆ど食べてないそうじゃないですか……」
「そうだよ。栄養たっぷり取らないと、いつまでたってもベットから離れられないよ」
「食べたくない」

 見るからにやつれているのが、わかる。これじゃ意識不明だった時のほうが見た目的には健康そうだ。
「バン、あのさ……」 
「何」
「あれからもう”耳鳴り”は聴こえない?」 
「……」
何故今そんなことを聞くのかと、なんとなく予想はついていた。バンは何も言わず黙り込んだ。
「やっぱり、聴こえてきたんだね」 
「……」
「ジャスミンは今も眠り続けてる。でも、そんな状態でも、ジャスミンは、無意識にバンに……こう、”助けて”って言ってるんじゃないかな」
手振りを交えながら、センは話す。しかし。
「センちゃんの気のせ……!」
バンはすぐさま反論しようしたその時。突然、耳が鳴った。

 ――キィーン――
バンは咄嗟に耳を押えるバン。
「耳鳴りしてるんですね!先輩!」 
「これで、”確定”だね」
「気のせいだって……」
そうじゃないと、否定しようとした瞬間。今度は声が聞こえてきた。

 <タスケテ……ダシテ……ココカラ>
 (なんで、俺なんだよ……!)

「俺じゃ駄目だって言ってるだろ!」 

そう叫ぶと、耳鳴りが消えた。
 驚くテツとセンの目の前だといるのも忘れ、バンはあはあと息を切らしながら、
「駄目なんだよ……」
「バン!」
「先輩!」
そう言うと、そのまま気を失った……

 ふっと目が覚めると、夜。月明かりが窓からこぼれて、なんとなく病室も明るい。
 (俺……あれからずっと、眠ってたのか……)

 ”あの時の夢”はさっきは見なかった。よかった。……それでもやっぱり自責の念は消えない。
 ぼーっと天井を見つめていると。また、”耳鳴り”が始まった。天井が、ゆらゆらと歪み始め、そこに見えるは、”若き日の、ジャスミン”。

*************

「ノリちゃんだけは…………親友だと思ってたのに!」
 ジャスミンは、それから学校を飛び出し、雨の中走り出した。

 走り出してから暫くして。彼女が目にしたのは。トモカオ星人オロジが、路地裏で若い女性を焼失させている”殺害現場”。
「知られたからには、お前も生きてはいられない……」 
とオロジに言われ、ジャスミンはドラム缶に叩きつけられる。
「――目を開け!」 
とジャスミンに怒鳴るオロジ。
 その一部始終を見ていたバンの耳に聴こえてきたのは、若き日のジャスミンの心の叫び。

 <目を開けたら……死ぬんだ……それでもいいかな……みんな私の事……気味悪がるし、友達なんていらない……死んでも…………いいや>

 (これは……俺が意識がない時に聴こえてきた言葉……)
 その時、一発の銃声が聞こえて、オロジは路上に倒れ、そのまま消滅してしまった。銃を撃ったのは、ボス。そこで、映像は、一旦途切れ、引き続きボスの声が聞こえてきた。

「俺が保障する。君は一人ぼっちじゃない。だから自分を嫌いになっちゃいけない」

*************

 『頼むから、ジャスミンを守ってやってくれ』
 『俺には、あいつを救えなかった……頼むからあいつを救ってやってくれ……』

 (ボスから言われた言葉。……もう自分の手からジャスミンは離れていったのを、ボスはわかってたんだ……)
 そう思ったバンに、最後に聴こえてきた声。

 <タスケテ……ダシテ……ココカラ>

「本当に……こんな俺でもいいのか?」 
 右手をぐっと握り締め、意を決した彼は、ナースコールで、”目的の場所”を教えてもらい、痛みを堪えて、ベッドから立ち上がり、壁伝いにその場所へと向かった……



 目的の場所。それは、ジャスミンが、寝ている病室。その病室の前で、彼女を守るが如く、座っていたウメコとホージーがバンに気付いた。
「……バン?」
「なんでお前がここにいるんだ?」

「ジャスミンに、会わせてくれ……」
「何言ってるんだ馬鹿……お前が会ったところでジャスミンがそう簡単に起きるとでも思ってるのか?」
「あたしでも、無理だったのに……」
 (そういうだろうと思ってたぜ……相棒も、ウメコも……みんなジャスミンのこと、好きなんだ……でも……)

「……頼む!」 
「バン?」
ウメコが驚く中、バンは、痛む体でその場に土下座をする。
「ジャスミンをこんな目に合わせた責任は、後で必ず取る……だから、ジャスミンに会わせてくれ!」
「バン……」
 バンを上から見下ろした格好で、ずっと黙っていたホージーがバンに問いかけた。
「……会ってどうするんだ?」 
「俺がジャスミンを、起こす」
「できなかったら?」 
「スペシャルポリスを辞める……仲間のことすら救えないやつが、地球なんか守れる訳、ないからな」
 (ふっ……お前にとって、ジャスミンはもはや「仲間」以上だろうが)

「わかった、行ってこい」 
「ホージーさん……」
「……どうせ、無理に決まってるさ……最後に一度ぐらい、会わせてやれよ、ウメコ」
無理に決まってるといいながらも、ひそかに笑みを浮かべているホージーを見て、ほっとしたバンは。
「サンキュ、相棒……」 
「相棒って言うな。早く行ってこい」

 よろよろと立ち上がったバンを支えながら、ウメコはこう言った。
「バン……ジャスミンのこと、お願い……」
「わかってるって。朝になったら、いつものアイスクリーム、買ってきといてやれよ」 
「うん…」

 そのままバンはドアの向こう側へと、消えた。

「ジャスミン、本当に起きるのかな」
「あいつならいつかこうするだろうって思ってた。あいつが本気になれば、ジャスミンだって、嫌でも起きるさ……」
「本当に?」
「それよりも……お前、朝になったらアイスクリーム、買いにいってこいよ」 
「ええ?嘘!」
 (今お金ないよ……)
「後はあいつに任せて、もう俺たちも休もうぜ……」
 (ミラクルマンだから、大丈夫だろう……頼むぞ)
あくびをしながら、ホージーはその場から離れる。 
「待ってよ、ホージーさん……」 
とウメコもその後についていった。

*************

「ジャスミン……」
 病室のベッドで横たわる彼女。バンは、窓から漏れる月の光に照らされている彼女を見て、初めて綺麗だと、思った。

 ふっと気付くと、耳鳴りもせずに、直接浮かんできた”ビジョン”――眠っているジャスミンの上に現れたのは、ロチイの幻影。思わず目を背ける。
 ロチイが、眠っているジャスミンの胸、首元、そして、耳を撫で回す。そして口元に近づき、接吻。

「綺麗な肌、してるじゃないか……はぁ、はぁ……胸もでかいしよぉ……ざまあみやがれ……ドギー……」
 目を背けながらもちらほらと、映るロチイの動きを見て、気が付いた。

 (ジャスミンを襲ったロチイの幻影か……)

 まったくといっていいほど、的外れな手付き。胸を触っているようで、実際のジャスミンには、触れていなかったり、接吻しているつもりが、一人で口を出してなんとも間抜けな格好……
 これは、ジャスミンが造り出している、恐怖?。

 (お前……ずっとこれが怖くて”出て来れなかった”のか……)

 ロチイの幻影を無視して、手袋をつけていない、彼女の白くて細い手を見つめる。
 (あのイリーガルマッチのときに、初めて彼女の手に、触れたんだっけ)
 あの時を思い出しながら、そっと彼女の手に、触れてみる。ロチイの幻影が、一瞬消えた。
 (もしかして……)  
 そのまま、彼女の頬に、触れる。また同じ現象。
 (……ロチイの幻影を完全に消す為には……) 
 でも。
 (ジャスミンを起こすって、決めたんだ) 
そう自分に言い聞かせて。

 (助けてやるから) 
そう思いながら、ベッドの脇に置いてあった、椅子に座り。右手は、彼女の冷たい左手を握りしめ、彼女の顔に近付くと、やさしく口づけを始めた。

*************

 (助けてやるから) 
かすかに聞こえた、彼の声。
 <バン……?> 
条件反射的に、そっと手を耳から離そうとした……でも。
 <……駄目!> 
またあの男が出てくるのかと思うと、怖くて離そうとした手を止めて、再びぎゅっと耳を塞ぐ。
 (ジャスミン……!) 
それでも聴こえて来る、彼の声。

*************

 彼女の冷たい手を握り締め、口づけを続けながら、目を閉じると、そこは闇の中。
 あの時、ジャスミンからの呼びかけを拒絶した時に、やっとバンは気付いた。自分の気持ちが彼女に伝わっていることを。

 <……駄目!> 
 彼女の声が聴こえてきた。何が駄目なのかはわからず、闇の中に目を凝らすと、段々とぼんやりとした光が見えてきた。……見つけた!
 (ジャスミン!) 
 そこには耳を塞ぎ、目を閉じて、”あの頃”と一緒のジャスミンが横たわっていた。

 ―あの手を離さない限り、きっと、ジャスミンは、起きることはないんだ―

 (手ぇ、離せって!) 
 自分の手は彼女には届かない。だから彼は呼び続ける。

*************

 ……手を離せと声が聞こえる。それも何度も何度も。
 <嫌……怖い> 
 その度にそう答えてた。それでも、彼の声が止まることはなかった。
 
 気が付くと、瞳を閉じているのに、彼女の中に”ビジョン”が流れてくる。

*************

 <これは……私?>
 自分が映っていた。それも、”あの時”と一緒。ロチイに襲われ続けている、自分。思い出したくもない。目を背けたくなる。しばらくしてから、ふっと気が付いた。
 <ああ、そうか、私、”あの時”のバンの中にいるんだ……>

 そう思った瞬間。バンの”心の声”がジャスミンの心に、流れてきた。
 (なんで……俺はこんな時に限って”感じている”んだ……ジャスミンが、襲われているって言うのに……畜生……)

 そして、痛みは感じないもの、背中から何か踏まれる感触がする。そして、あの憎きアブレラの声。

 『なんだ?……やっぱりお前も欲情してるんじゃないか』
 『よかったな。いい息抜きになっただろう?普段の警察の仕事は息が詰まるだろうからな……』
 (……俺、お前を”裏切った”……ごめんな)

 <バン……!> 

 ”ビジョン”は消えて、再び闇の中に戻った。

*************

 気が付くと、ジャスミンの瞳にはまた違う”ビジョン”が見えてきた。
 辺りはさっきと同じ闇の中だったが、目を凝らすと、遠くでセーラー服の女の子が一人で泣いている。誰かと話をしているようだ。

「助けてくれなくても良かったのに……」
 (昔の私だ…!)
 しかし、その次に返ってきた返事は自分の記憶とまったく違っていた。

『愛する人の目の前で、犯されてしまったからか?感じてしまったからか?』

 (違う…!あの時は『君が、エスパーだからか?』って私に聞いてきたはず……)
そんなジャスミンの疑問は素通りされ、少女はこう返事した。

「…そうです」 
『君は…もう彼を愛していないのか?』
「そんなこと!ありません……」
『彼は、君の事を今でも愛してくれている。さっき君だって聴こえただろう?”彼”の声が。そして、君もそれをずっと待っていたんだろう?』
「……」
「君は”もう”一人ぼっちじゃないんだ。さ、早くその手を離すんだ。”ジャスミン”」
ボスが現れて、こっちの方を向いた。

 (え?なんで私がいるってわかるの?)
 少女もこっちを向いて、黙ってにっこりと微笑む。

『もう、自分から”過去(こっち)”には戻ってくるんじゃないぞ』
「…ボス…」
 そう言って、ジャスミンは、やっとずっと耳を塞いでいた手を離した……

*************

 ふっと気が付くと、左手が、暖かい……。そして一番最初に目に入ったのは。
「バン……」
「おはよう、ジャスミン」
 体中包帯ぐるぐる巻き。頬はげっそりとやつれている。それなのに。笑顔でジャスミンを見つめながら。彼の唯一動く右手は、自分の左手をずっと握り締めてくれていた。
自分に気持ちを読まれるかも、しれないっていうのに。
「助けにくるの、遅くなっちまって…ごめんな」
 暖かかったのは、彼の右手。そこから、全身ににぬくもりが伝わってくる。嬉しくて……そして、彼が愛しくて……涙が、溢れてきた。
「バン……!」

 バンの胸元にこつんと頭を置く。でも、彼の負担にならないように、本当にちょっとだけ頭を置こうと思っていたら。
 それを読み取ったのか、バンは自分の右手を彼女の頭に置いて。
「もっとぎゅって寄りかかって来ればいいじゃん」
 ジャスミンの顔を自分の胸元に、ぐっと近付けた。
 そんな優しさがたまらなく嬉しくて。彼の胸の中で、また、涙が枯れるまで……泣いた。

 
 気が付くと、夜が明けて、陽の光が窓から差して来る。
「もう朝か…”無謀な悪を、迎え撃ち、恐怖の闇をぶち破る、夜明けの刑事、デカレッド!”って感じ?」

 せっかくいいところで茶化すところはいつもと変わりない。
「…もう、年明けちゃったんだね」
「俺も、意識不明で年越しだったから、お揃いだぜ?やっとおせちとお雑煮食えるぜ?……あ、ウメコが後でジャスミンの好きなアイスクリーム買ってきてくれるから、”初アイスクリーム”か?」
「バン」
「何だ?」

 じっと、バンの顔を見つめながら。
「バンのこと、”愛して愛して愛しちゃったのよ”」
「……」
 (これっていつものジャスミン語だろうけど、でも、告白って、奴だよな…)

 かあっとバンの顔が赤くなった。そして、それに追い討ちをかけるように。ジャスミンは体を起こして、バンの右頬に、キス。

 バンは自分の右手、そしてジャスミンの左手。一旦離していた手を、再び握り締めて。ふっとバンはジャスミンの耳元に近寄って呟いた。
「俺、お前のこと、ずっと守ってやるからな……絶対に」
「…うん」
 そして、握った手から、バンがジャスミンに、声ではなく、心で伝える。

 (もし、昔のこと思い出したら、俺が忘れさせてやるから)
 (前は助けてやるって、言ってたね……どういう方法で、忘れさせてくれるの?)
 (そんな野暮な質問、するなよ……)

――自分の気持ちが彼に伝わっているのをはっきり気付いた、彼女。
 自分の気持ちが彼女に伝わっているのを、やっと気付いた、彼。
 2人の気持ちは今、やっと重なった。――

「しっかし、告白するときぐらい、普通に言えよな、あれいつ流行った言葉なんだよ……」
「バンだって”夜明けの刑事”ってテツの名乗り、真似っこしてたじゃない」       

(終)

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